インダクタンスとは?単位と求め方、リアクタンスの関係
「コンデンサーは電気を貯めるもの」となんとなく知っていても、「コイル(インダクタンス)」となると、急にイメージしづらくなりませんか?
しかし、スピーカーの中にあるネットワーク回路や、Revoxなどのテープレコーダーの発振回路において、コイルは主役級の働きをしています。今回は、この「コイル」の正体を、難しい理屈抜きで直感的に理解できるように解説します。
1. インダクタンスとは?「電気の慣性」である
一言で言うと、インダクタンスとは「電流の変化を嫌がる性質」のことです。
- 水(電流)を流し始めても、重い水車(コイル)はすぐには回りません。(電流の立ち上がりを遅らせる)
- 一度勢いよく回り始めた水車は、水を止めてもすぐには止まりません。(電流を流し続けようとする)
この「変化に逆らう力」の大きさのことをインダクタンスと呼びます。コンデンサーが「電圧の変化」を嫌うのに対し、コイルは「電流の変化」を嫌います。まさに正反対の兄弟のような関係です。
2. 単位は「ヘンリー (H)」
インダクタンスの単位は「H(ヘンリー)」を使います。
コンデンサー(ファラド)と同じく、1H は非常に大きな単位なので、オーディオ機器では補助単位のミリ(m)やマイクロ(μ)がよく使われます。
| 大きさ | 単位記号 | 読み方 | 換算の目安 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 大 | H | ヘンリー | 1 H = 1,000 mH | 大型電源用チョークコイル |
| 中 | mH | ミリヘンリー | 1 mH = 1,000 μH | スピーカーネットワーク (ウーファー用など) |
| 小 | μH | マイクロヘンリー | 基準の最小単位 | 発振回路、RF回路 (高周波用) |
Revoxのオシレーターコイルなどで見かけるのは、主に mH や μH の世界です。
3. オーディオにおけるコイルの役割
では、具体的にオーディオ機器の中でコイルは何をしているのでしょうか?主な役割は以下の2つです。
① 低音を通して、高音をブロックする(ローパスフィルタ)
コイルには「周波数が高い(動きが激しい)信号ほど通しにくく、低い(ゆっくりした)信号は通す」という性質があります。
- ウーファー(低音用スピーカー):コイルを直列に繋ぐことで、不要な高音をカットします。
- ノイズ除去:電源ラインに入ってくる高周波ノイズをブロックします。
② 特定の周波数を作り出す(共振・発振)
コンデンサーとコイルを組み合わせると、シーソーのようにエネルギーを交換し合い、特定の周波数で振動します。
Revox B77などのテープレコーダーでは、録音用ヘッドに流す「バイアス電流」を作るための発振回路(オシレーター)として重要な役割を果たしています。
4. 少しだけ数式の話(リアクタンス)
「コイルがどれくらい電流を妨げるか(抵抗値のようなもの)」を表す値を誘導性リアクタンスと呼び、\( X_L \)(オーム)で表します。
ここから分かることはシンプルです。
- \( f \)(周波数)が高くなるほど、\( X_L \)(抵抗)は大きくなる = 高音を通さない
- \( L \)(インダクタンス)が大きいほど、\( X_L \)(抵抗)は大きくなる = 強力にブロックする
まとめ:コンデンサーとの違い
最後に、オーディオ修理・自作で覚えておくべき対比をまとめました。
| パーツ | コンデンサー (C) | コイル (L) |
|---|---|---|
| 性質 | 電圧の変化を嫌う | 電流の変化を嫌う |
| 周波数特性 | 高音を通す (ハイパス) |
高音を遮断する (ローパス) |
| 位相 | 電流が進む | 電流が遅れる |
「高音をカットしたいときはコイル(mH)」、「特定の周波数を発振させたいときはコイルとコンデンサーの組み合わせ」。
この基本さえ押さえておけば、回路図を見る目がぐっと変わるはずです。
5. 自己インダクタンスの求め方
コイルを巻いたとき、そのコイルが何ヘンリーになるのか。これは形から計算できます。
もとになる定義は単純で、コイルを貫く磁束の合計を、流した電流で割ったものがインダクタンスです。巻数を N、1巻きあたりの磁束を Φ、電流を I とすれば、L = NΦ / I になります。
実際に使うのは、そこから導いた形の式です。細長いソレノイド(円筒に一様に巻いたコイル)なら、こう書けます。
L = μ × N² × A ÷ l
N は巻数、A は断面積(平方メートル)、l はコイルの長さ(メートル)、μ は中身の透磁率です。μ は真空の透磁率 μ₀ = 4π×10⁻⁷ H/m に、芯の比透磁率 μr を掛けたものになります。空芯なら μr は 1 です。
数字を入れてみます。空芯で、巻数100回、断面積1cm²(=1×10⁻⁴ m²)、長さ5cm(=0.05m)のコイルなら、N²A ÷ l は 10000 × 0.0001 ÷ 0.05 = 20。これに 4π×10⁻⁷ を掛けて、およそ 25μH になります。
ここで効いてくるのが N² です。巻数を2倍にすると、インダクタンスは4倍になります。長さを詰めても増えます。そして芯を入れると、比透磁率のぶんだけ一気に跳ね上がります。フェライトなら数百倍から数千倍です。小さなコイルが大きなインダクタンスを持てるのは、この芯のおかげです。
ただし芯には限界があります。電流を増やしていくと、ある点から磁束が増えなくなり(磁気飽和)、インダクタンスが急に下がります。電源回路のコイルが定格を超えると急に発熱するのは、これが理由です。
6. リアクタンスとインピーダンスの関係
コイルが交流に対してどれだけ「通しにくいか」を表すのが、誘導性リアクタンス XL です。
XL = 2πfL
f は周波数(Hz)、L はインダクタンス(H)で、答えの単位はオームになります。10mH のコイルを 1kHz で使うなら、2π × 1000 × 0.01 で約63Ωです。同じコイルを 10kHz で使えば約628Ω。周波数が10倍になれば、通しにくさも10倍になります。低い音を通して高い音を止める、という働きはここから来ています。
抵抗と組み合わせたときは、単純な足し算にはなりません。抵抗 R とリアクタンス XL が直列なら、合成したインピーダンス Z は次のようになります。
Z = √(R² + XL²)
二乗して足して、平方根を取る。この形になるのは、抵抗にかかる電圧とコイルにかかる電圧の位相が90度ずれているためです。コイルでは、電流が電圧より90度遅れます。コンデンサはその逆で、電流が90度進みます。この二つが打ち消し合うのが共振です。
抵抗とコイルで作るローパスフィルタの折れ点は、XL = R になる周波数、つまり fc = R ÷ (2πL) です。ここを境に、上の帯域が落ち始めます。
7. 相互インダクタンスとは
コイルを2つ近づけると、片方に流した電流の変化が、もう片方に電圧を生みます。この結びつきの強さを表すのが相互インダクタンス M です。
M = k × √(L₁ × L₂)
k は結合係数で、0から1のあいだの値を取ります。まったく結びついていなければ0、磁束が漏れなく相手に伝われば1です。トランスは、この k をできるだけ1に近づけるために、同じ芯に両方のコイルを巻いています。
2つのコイルを直列につないだときは、向きによって合計が変わります。互いの磁束が強め合う向き(和動接続)なら L = L₁ + L₂ + 2M、打ち消し合う向き(差動接続)なら L = L₁ + L₂ − 2M です。同じ部品でも、つなぐ向きひとつで値が変わります。
結びつきがない場合の合成は素直で、直列なら L = L₁ + L₂、並列なら 1/L = 1/L₁ + 1/L₂ と、抵抗と同じ形になります。