金田式DCアンプ No.199 真空管D/Aコンバーター 製作ガイド
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金田明彦氏が設計した DCアンプシリーズの中で、No.199 はデジタル入力をディスクリート電源と双三極管によるI/V+差動合成(DSC)回路で処理する、真空管D/Aコンバーターの代表的作例です。
MJ無線と実験 2008年11月号(前編)および12月号(後編)(完全対称型オ-ディオDCアンプ: 音楽ファンに捧げる自作オ-ディオ)に掲載され、その後の真空管DAC製作の基本形として参照され続けています。
今回2026年になり、筆者がDACを探しているということで・・・
はい、適当に中華製の高級DACを買わずに金田式No.199 の真空管D/Aコンバーターにチャレンジするところがやはり凝り性というか、エンジニア気質なんだと思います。
筆者の場合、オーディオの師匠である五島昭彦氏からのパーツ提供もあり、まずはパーツ、部品類がすべて揃った状態からスタートということで、金田式を創る最大のハードルであるパーツの確保をスキップすることができましたが、今後のためにもぜひ回路構成や部品選定、2026年現在の入手状況などできるだけ掲載したいと思っています。
製作者が着手前に必要な情報を一望できるガイドとして構成しました。
基本情報と回路の概要
詳細は、MJの2008年11月号(前編)および12月号(後編)を参照してほしいのと、金田式の場合は、やはりオーディオの神様である金田明彦氏の言葉、語録をDNAに注入してこそ完成していくというところがあるかと思います。
そのため、詳細な技術解説はここではせず、制作のガイドとなる情報だけ整理していきたいと思います。
No.199 は CDトランスポートやデジタルプレイヤーからの S/PDIF入力を、デジタル受信、D/A変換、I/V変換、差動合成という流れで処理し、アナログ電圧出力として取り出す構成です。
主要素子はDAIレシーバーに Cirrus Logic CS8416-CSZ(28ピンSOP、ピッチ1.27mm)を使用。
サンプリングレートは最大192kHz / 24bit に対応しますので、もう20年近く前の設計ですが、現代でも十分過ぎるスペックを誇ります。
DACチップには Burr-Brown(現Texas Instruments)の PCM1794A(28ピンSSOP、ピッチ0.65mm)を採用。
PCM1794A はディファレンシャル電流出力型のDACで、外部のI/V変換段で性能を最適化できる設計になっています。
No.199 ではステレオ1個使いを基本とし、音質を追求する場合はモノラル2個使いの構成も選択できます。
アナログ部は WE396A / 2C51 / 5670 系の双三極管を12本使用した、真空管I/V+DSC(差動合成)構成です。
PCM1794A の電流出力をそのまま真空管段に渡し、電圧変換と差動合成を行います。
No.199 で新たに導入された特徴として、+3.3V のディスクリート電源があります。
No.196 までは3端子レギュレータを使用していたデジタル部の +3.3V を、ディスクリート構成に改めることで電源由来のノイズを低減しています。
もうひとつの特徴がバイポーラゼロキャンセラー(BZC)回路です。
PCM1794A の電流出力には数mAのDCオフセット成分が含まれており、これをそのまま真空管段に流すと後段アンプの動作点に影響します。
BZC回路はこのDCオフセットを能動的にキャンセルすることで、アナログアンプ部のトランジスタの発熱を抑え、音質改善にも寄与する仕組みです。
加えて、古いCD音源で使われたプリエンファシス信号に対応するため、ディエンファシスON機能を備えています。
【図解挿入:No.199 の信号経路ブロック図(S/PDIF入力→CS8416→PCM1794A→BZC→真空管I/V→DSC→出力)】
2. 主要部品と2026年現在の入手性
製作着手前に最も重要なのは、入手難度の高い部品から先に確保することです。
2026年現在の状況を以下にまとめます。
デジタル部のIC
CS8416 は Cirrus Logic がディスコン扱いとしており、現在は流通在庫頼みの状態です。
Digi-Key や Mouser でも在庫が枯渇するタイミングが出てきているため、入手可能なうちに確保することが推奨されます。
パッケージには1.27mmピッチSOP(CS8416-CSZ)と0.65mmピッチTSSOPの両方が存在し、MJ記事は前者を採用しているため、購入時には型番末尾の確認が必須です。
PCM1794A も TI で非推奨ステータスとなっていますが、PCM1794A として流通在庫が存在します。
秋月電子、共立電子、Aliexpressでも入手可能ですが、リマーク品や偽物のリスクがあるため、Digi-Key や Mouser などの正規ディストリビューターからの購入を推奨します。
【要確認:2026年5月時点での正規ディストリビューター在庫状況】
真空管 WE396A / 2C51 / 5670 系
オリジナル指定の WE396A は近年高騰しており、12本のペア選別を前提とすると相当な出費になります。
実用的な代替候補としては以下があります。
ロシア製 6N3P(6Н3П)は396A の互換球で、eBay や海外通販で1本5ドル程度から入手可能です。
ペア選別用にバラ付きで20本程度確保しても比較的安価に収まります。
やなさん(yanasoft)の製作例ではこの球が採用されており、十分な実用性が確認されています。
JAN 2C51 や GE 5670W は WE396A より入手しやすく、価格もこなれています。
東芝や日立の 6463 は 5670 同等品として使用できます。
ピッチ変換基板と汎用部品
MJ記事のとおりユニバーサル基板で組む場合は、サンハヤト SSP-61(0.65mmピッチSSOP → DIP変換)が PCM1794A 分として2枚必要です。
基板本体には ICB-96(丸ランドユニバーサル基板)が指定されています。
3. 電源部の仕様
No.199 の電源は、デジタル部とアナログ(真空管)部で複数系統を構成します。
デジタル部は +5V のディスクリート電源と +3.3V のディスクリート電源です。
+3.3V のディスクリート化が No.199 における電源面の更新点になります。
アナログ部はB電源として +112V と -120V を供給します。
整流素子としてオリジナルでは WE412A 真空管整流が指定されていますが、ショットキーバリアダイオード(SBD)整流での代用も実用上問題なく行われています。
ヒーター電源は +6.3V で、3端子レギュレータでの構成が可能です。
12本の真空管ヒーターを単一レギュレータで賄うと発熱が大きくなるため、2系統に分けることで温度面の安全余裕が確保できます。
バイアス電源は -12V のレギュレータ構成です。
実装の要点
PCM1794A の0.65mmピッチ実装
先人の知恵として確立されている手順は次の通りです。
まず基板パッドにフラックスを塗布し、ICを正しい向きで仮置きします。
40W程度のハンダごてで片側のピン全てに一度にハンダを乗せ、その後ハンダ吸い取り線で余分なハンダを除去します。
ピン間にブリッジが残っていれば追加で吸い取ります。
10倍ルーペでの目視確認は必須です。
ブリッジや浮きが見つかった場合は、ハンダを再度乗せ直してから吸い取り線で除去する手順を繰り返します。
部品の向き
金田式では回路図上の △印 によって部品の極性や向きが指定されます。
記事に明記されていない箇所でも、コンデンサの〇マーク、電解コンデンサの+マーク、抵抗のカラーコードの基準線側を △印 の方向に揃えるのが金田式の流儀です。
これは音質に影響するとされる伝統的な作法であり、製作者の間で広く共有されています。
配線チェック
火入れ前には最低2回の配線チェックが推奨されます。
電源系統が複数あり、真空管のヒーター配線と高圧B電源が同居する構成であるため、誤配線時の損害は大きくなりがちです。
調整ポイント
電源投入後の調整は以下の四箇所が中心になります。
IVC回路の Io 電流調整は、+112V電源とプレートの間に10Ωの抵抗を挿入し、両端電圧が70mVになるよう Rs を調整します。
これにより Io = 7mA が確保されます。Rs は半固定抵抗化することが推奨されます。
DSC回路の Io 電流調整は、AOC回路の半固定抵抗と連動して行います。
AOC調整を回しながら適切な電流ポイントを探る作業であり、感覚的に微妙な範囲のため、焦らず段階的に追い込みます。
IVCゼロバランス調整は、BZC回路の半固定抵抗で行います。
DSCゼロバランス調整は、AOC回路の半固定抵抗で行います。
完成までのスケジューリング
まずは記事を手に入れるところから始まる。
手に入れていない人は、メルカリでの入手が発見率高く感じます。
No.199 は「電源部」「デジタル部」「アナログ(真空管)部」「BZC+配線統合」「調整」という大きく5つの山があり、これを時間軸に落とすと、下記のような工程組みになります。
専業ではなく制作と並行する前提で、1日あたり3〜4時間の作業時間を想定して組み上げていきます。
Day 0:設計理解と工程確定(半日〜1日) MJ 2008年11月号・12月号、および書籍「完全対称型オーディオDCアンプ」の該当章の通読。
MJ記事と書籍の両方を手元に置きます。
回路図上で信号の流れ(SPDIF入力 → CS8416 → PCM1794A → 真空管I/V → DSC → 出力)と、電源の流れ(B電源±、+5V、+3.3V、ヒーター、バイアス)を別紙にブロック図として書き起こします。
調整箇所(IVC Io、DSC Io、IVCゼロバランス、DSCゼロバランス)の位置を回路図上にマーキングしておきます。
Day 1:部品照合と仕分け(1日) 抵抗はカラーコードだけでなくテスタで実測値を確認し、定数ごとに小袋またはパーツケースで分類。
コンデンサは耐圧と容量、極性の有無で分類。
半固定抵抗のうち調整関連部位は多回転品への置換が推奨されるため、ここで該当箇所を回路図上で確定し、不足があれば手配します。
真空管12本はピン番号刻印・ゲッター・製造ロット・外観を確認し、ペア選別の要否を判断。
CS8416 と PCM1794A はピッチ変換基板の準備状況を確認。
Day 2〜3:電源部の組み立て(2日) B電源(+112V / -120V)、+5V、+3.3Vディスクリート電源、ヒーター+6.3V、バイアス-12V を順に組みます。
各電源を独立に火入れし、無負荷および擬似負荷(適切な抵抗)で電圧を実測。
この段階で全電源電圧が規定値に収まるまで、デジタル部・アナログ部の実装には進みません。
電源が不安定なまま下流を組むと切り分けが困難になるためです。
Day 4:CS8416 と PCM1794A の実装(1日) ピッチ変換基板への 0.65mm ピッチSSOP のハンダ付け。
フラックス塗布、片側一括ハンダ、吸い取り線、10倍ルーペでの目視確認。
PCM1794A の0.65mmは 細かいため、照明と拡大装置の準備を念入りに。
両面実装基板の場合は裏側のチップコンデンサ・抵抗を先に済ませます。
Day 5:デジタル部の周辺実装と単体確認(1日) DAI周辺の発振子、デカップリング、+3.3V/+5Vの供給配線、SPDIF入力部。
可能であれば PCM1794A の電流出力にBZCを接続する前段階で、デジタル部のみ通電し、CS8416 のロック表示および PCM1794A への I2S 信号が出ているかをオシロまたはロジックアナライザで確認します(オシロが手元になければ、この確認はスキップしてアナログ部完成後に通しで行います)。
Day 6〜7:真空管アナログ部の実装(2日) ソケット取り付け、配線。
12本の双三極管の配置とヒーター配線。
金田式の △印 に従った部品の向き合わせ。
アナログ部はラグ板配線の物理的な美しさが信号品質と相関する伝統があるため、配線の引き回しを設計してから着手します。
Day 8:BZC回路の組み込みと配線統合(1日) PCM1794A の電流出力にBZCを接続し、I/V入力までの結線を完成。
全系統の最終配線チェック。
火入れ前のチェックは最低2回、できれば翌日に再度1回行います(一晩あけることで見落としに気づきやすくなる)。
Day 9:火入れと電源系統の確認(半日〜1日) 真空管を挿さない状態でB電源・+5V・+3.3V・ヒーター・バイアスを通電し、各レール電圧を実測。問題なければ真空管を挿してヒーターのみ点灯確認、その後B電源投入。
Day 10〜12:調整(2〜3日) IVC Io 調整(+112V電源とプレート間 10Ω両端電圧 70mV、Io = 7mA)、DSC Io 調整、IVCゼロバランス、DSCゼロバランスを順に。調整は片チャンネルずつ、各回路で電源電圧の確認 → Io 調整 → ゼロバランスの順で進めます。
半固定の可動範囲ぎりぎりに調整値がある場合は周辺定数の見直しが必要になるため、ここで五島氏への問い合わせ経路が生きてきます。
Day 13〜:試聴と微調整、エージング 最初の音出しは小音量から。
エージングが進むと動作点が動くため、数日後に再度ゼロバランスを確認します。
作業の工程の整理、パーツの整理などには、Obsidianを使うといいと思います。
詳しくは次の記事で・・・