小さなクエストが世界地図を変える:StreetCompleteの挑戦
「偉大なことは衝動ではなく、小さなことの積み重ねによって成し遂げられる」、フィンセント・ファン・ゴッホ。
地図を一枚一枚、現地の小さな真実で埋めていく。
そんな営みが、いままさに広がっています。
オープンソースの地図「OpenStreetMap」を、ゲーム感覚のクエストで補完していくアプリ「StreetComplete」。
単なる地図アプリではなく、誰もが参加できる共同作業の場として、海外の開発者や地図愛好家のあいだでじわじわと注目を集めているのです。
小さなクエストの力
StreetCompleteを起動すると、あなたの周辺で「まだ誰も答えていない質問」がクエストとして現れます。
たとえば、「このお店の営業時間は?」
「この横断歩道に点字ブロックはある?」
「この道の路面は舗装?
未舗装?」
といった具合。
実際にその場所へ行き、目で見て確認し、選択肢から答えるだけ。
入力した情報はそのままOpenStreetMapに追加され、世界中の地図がほんの少し、正確になるのです。
難しい操作は一切不要。
専門的な地図編集ソフトを使う必要もなく、まるで宝探しのように、小さなクエストをひとつずつ解決していく。
これが「StreetComplete」の名前の由来であり、最大の魅力です。
誰でも編集者になれる
通常、OpenStreetMapにデータを追加するには、少々取っつきにくいエディタを覚える必要がありました。
しかしStreetCompleteは、質問形式で答えを誘導してくれるため、地図のタグ構造を知らなくても大丈夫。
道を歩いたり自転車に乗ったりしながら、スマホひとつで「ついで」に地図を豊かにできる。
そう、まるで街の小さな秘密を集めるように。
オフラインでも動作し、回答は一時保存されて、ネットがつながったときに一括送信されます。
データ通信量を気にせず、地下街や山間部でもクエストをこなせる。
この気楽さが、多くの人を惹きつけているのでしょう。
地図が生きている
OpenStreetMapは、誰でも自由に使える世界地図。
でも、その網羅性は場所によってまちまちです。
飲食店の情報が充実している都市もあれば、田舎の小道の路面情報がまったくない地域もあります。
StreetCompleteは、そうした「地図の空白」を、そこに暮らす人や訪れる人の日々の行動で埋めていく。
地図が、じわじわと息を吹き返すような感覚。
これは、ひとりひとりの小さな好奇心が、地図という共有財産を育てていくプロセスにほかなりません。
また、このアプリ自体もオープンソースで開発されており、世界中の有志が新しいクエストの種類を追加したり、翻訳に協力したりしています。
たとえば、地域の交通標識や、公園の遊具の有無といった、日本ならではの問いかけも、誰かが提案すれば実装されるかもしれません。
地図だけでなく、アプリそのものが参加で育つ仕組みも、このプロジェクトの面白さです。
これからの地図、これからの参加
もちろん、課題もあります。
クエストの種類は限られており、地形そのものの編集や、建物の輪郭を描くような作業はできません。
あくまで「補完」が役割。
また、回答の正確さをどう担保するかという議論もあります。
善意の誤った情報が混ざらないように、一定のガードレールは必要でしょう。
それでも、このアプリが示す「小さな参加の積み重ね」モデルは、技術的なハードルをぐっと下げ、地図をより民主的なものにしてくれます。
もしかすると、いつか自分の足元の情報が、遠く離れた誰かの道案内になるかもしれない。
そんな予感を抱かせてくれるアプリです。
ではでは、今日もどこかで誰かが、歩きながら小さなクエストを解いている。
そう思うと、街を歩く楽しみも少し変わりそうです。