ディスクは鍵だった、Xbox障害とデジタル所有のゆくえ

Blu-rayやDVDのプレスディスクの内周には、バーストカッティングエリア(BCA)と呼ばれる領域があります。

製造時に刻まれるユニークなID、いわば“指紋”がここに記録されていて、再生機器はこのIDを読み取ることで正規品かどうかを認証するのです。

このところ海外の技術者の間で話題を呼んでいる、Xboxの大規模障害のニュースをご存知でしょうか。

日曜の夕方から続いたサーバーダウンによって、ダウンロード版はもちろん、なんとディスク版のゲームまで遊べなくなったというのです。

“ディスクを持っているのに遊べない”、なんだか不思議な気もしますが、先ほどの豆知識と照らし合わせると、なるほど、と思えてくる部分もあります。

ディスクは「鍵」に過ぎなかった

Xbox Oneが登場した2013年、ゲームの扱いは大きく変わりました。

ディスクを挿入すると、そこに収められたデータは必ず内蔵ハードディスクへとインストールされます。

プレイ中に光学ドライブが回り続けることはなく、ディスクの役割は「インストール元」と「ライセンスの確認」に集約されたのです。

ソフトウェアを起動するたび、コンソールはディスクのBCAのような固有情報を読み取り、正規のライセンスを保持しているかどうかをチェックします。

このとき、システムの認証プロセスがサーバー側の障害やネットワークの不調につまずいてしまうと、たとえ本物のディスクであっても、ゲームは起動してくれません。

今回のXboxのケースでは、まさにそのライセンス確認がうまく機能しなかったのでしょう。

報告によれば、オフラインでも一部のディスクゲームは動作したそうですが、多くのタイトルでは「このゲームをプレイする権限が確認できません」というメッセージが表示されたといいます。

すでにインストール済みのデータが目の前にあるのに、手元の円盤はただのプラスチック片と化してしまった、というわけです。

所有からアクセス権へ、変わりゆく「買う」という行為

ゲームに限った話ではありません。

音楽の世界を振り返れば、かつてCDを購入するという行為は、盤そのものを自分のコレクションとして手に入れることでした。

ところが今では、定額制のストリーミングで膨大な楽曲にアクセスできる一方で、サービスが終了すればライブラリは一瞬で消え去ります。

映像のDVDやBlu-rayも、気がつけば動画配信のサブスクリプションに取って代わられつつあります。

ソフトウェアの世界では、永続ライセンスから年額契約への移行が標準的になりました。

これらに共通しているのは、「買う」から「利用権を得る」への静かで着実なパラダイムシフトです。

PCゲームのプラットフォームを見渡せば、Steamの成功によって完全デジタル化が定着しました。

もちろん、GOGのようにDRMフリーを掲げ、オフラインインストーラーを提供する動きもありますが、主流はあくまでオンライン認証を前提としたライセンス管理です。

コンソールゲーム機にもディスクドライブ非搭載モデルが当たり前に存在するようになり、私たちはますます「見えないライセンス」に囲まれて暮らしています。

それでも「手元にある」ことの重み

さて、こうした流れの中で、芸術家の端くれとして思うのは、創作物がきちんと後世に残せるかどうかという心配です。

ゲームもまた、映像や音楽と同じく、一つの文化です。

しかしオンラインサービスや認証サーバーの寿命が尽きれば、正規の手段では二度とアクセスできなくなる作品が山ほどあります。

作り手の権利を守る仕組みはもちろん必要ですが、同時に、文化的な遺産としてのゲームをどう保存するかは、業界全体の課題でもあります。

物理メディアは、そうした保存の面ではとても頼もしい存在でした。

ネットワークがなくても、本体さえ動けばゲームは遊べる。

けれども、技術の進化が「ディスクを鍵にしてしまった」ことで、その頼もしさも少しずつ揺らいでいるのかもしれません。

私たちは、いつのまにか“所有”というあたたかな錯覚の中で、便利さを享受しているのでしょう。

でも、ふとした瞬間に手にしたディスクの重みに、なにがしかの信頼を感じてしまう、そんなやわらかな気持ちも、捨てたものではないと思うのです。

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