余計なものを削ぎ落とすこと:『Every Fucking Website』が映すウェブの現在地
「完成とは、これ以上何も足せない状態ではなく、これ以上何も取り除けない状態のことである」
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの言葉です。
飛行士であり作家でもあった彼のこの一言は、ウェブの世界ではなかなか耳が痛い。
今、海外の技術者たちの間で『Every Fucking Website (2020)』という風刺ページが話題になっています。
今回は、このページが示す「ウェブの現在地」について、技術と表現の両面から考えてみます。
なにが起きているのか
このページは、いわゆる「いまどきのウェブサイトあるある」を一か所に集めたものです。
実際にアクセスすると、まずCOVID-19の告知バナーが現れ、その下にクッキーの同意を求めるバナー、ニュースレター購読のポップアップ、割引コードの案内、チャットボットの「こんにちは」が折り重なるように表示されます。
記事本文はどこかへ消え、ユーザーは閉じるボタンを探すのに精一杯。
こうした体験は、誰しも一度は味わったことがあるのではないでしょうか。
このページは、それを誇張して並べることで、私たちが日常的に受け入れている「ノイズ」を可視化しています。
なぜこんなことになるのか
この手の要素が増えた背景には、技術的な理由と経済的な理由が絡み合っています。
まず、欧州のGDPRやカリフォルニアのCCPAといった法規制により、サイトは訪問者の同意を得る義務を負うようになりました。
結果、クッキーバナーは「法令対応の必須装備」になりました。
一方、ニュースレター登録や割引ポップアップは、コンバージョン率を高めるための施策です。
A/Bテストの結果、たとえ邪魔でも数パーセントの改善が見込めるなら、実装しない手はない、という判断が積み重なってきました。
チャットボットはサポートコスト削減と即時応答の両立を狙ったもので、最近は機械学習を組み込んだものも増えています。
どれもそれぞれの文脈では合理的なのですが、全部が同時に動くと、ユーザーにとってはただの障害物です。
技術者として見ると
この風刺ページは、単に面白いだけでなく、実装の現実をよく表しています。
クッキーバナー、モーダルウィンドウ、チャットウィジェット、トラッキングスクリプト、ソーシャルボタン。
これらは通常、別々のスクリプトとして読み込まれ、それぞれがレンダリングをブロックしたり、追加のネットワークリクエストを発生させたりします。
ページの表示速度は落ち、JavaScriptの競合が起きれば動線も壊れます。
しかも、同じ機能を提供するためのスクリプトが複数入っていることも珍しくありません。
さらに、クッキー同意管理のスクリプトは、同意が得られるまで他のタグをブロックする仕組みを持つことが多く、設定によっては読み込みの遅延に拍車をかけます。
モーダルはユーザーの離脱操作を検知して発火するよう実装されていることもあり、その分だけ処理が増えます。
アクセシビリティの面でも、モーダルが開いたときにフォーカスが移動しない、閉じるボタンが小さすぎる、スクリーンリーダーで読み上げられない、といった問題が指摘されています。
不要なものを削るどころか、積み上げた結果が「Every Fucking Website」なのです。
表現としてのウェブ
芸術の側面から言えば、このページは一種のコンセプチュアル・アートとも言えます。
作者はユーザーに「不快さ」を追体験させることで、ウェブ体験が本来持つべき余白や呼吸が失われている現状を浮き彫りにしました。
タイトルの強い言葉は、怒りというより、もはや笑うしかないという諦念の表れでしょう。
技術と表現はしばしば対立するように語られますが、このページはその摩擦そのものを作品にしています。
削ぎ落とすことの美学を説いたサン=テグジュペリの言葉が、皮肉にもウェブの過剰さを測る物差しになっている気がします。
ではでは、今夜はこのあたりで。
次にウェブサイトを開いたとき、閉じるボタンを探す指が少し休まるといいのですが。