AIがデュアリティの道筋を覚える、理論物理学のための新しいベンチマーク
「深遠な真理の反対は、別の深遠な真理でありうる」、そう語ったのは物理学者ニールス・ボーアです。
一つの正解が唯一とは限らず、まったく異なる見方が同じ現実を映し出す、そんな「双対性」の考え方は、物理学の長い歴史のなかで幾度となく立ち現れてきました。
今日は、その双対性をAIがどのようにして見つけ出そうとしているのか、最新の研究をのぞいてみましょう。
デュアリティってなに?
たとえば、一枚の地図を思い浮かべてください。
地形を等高線で丹念に描いたものも、道路と建物だけを強調した観光マップも、同じ街の姿です。
使う記号や視点は違っても、どちらも正しい。
物理学の双対性もこれに似ていて、一見まるで別の理論が、実は同じ物理現象を言い表している、という驚きの関係を指します。
今回の主役「サイバーグ双対性」は、超対称性と呼ばれる特別な性質をもつゲージ理論のあいだに見つかる双対性。
しかし、二つの理論が本当に双対かどうかを判定するのは、計算の手間が膨大で、なかなか一筋縄ではいきませんでした。
クイバーと突然変異の話
この双対性を数学的に扱うとき、よく使われるのが「クイバー」という道具です。
クイバーとは、丸(ノード)と矢印(アロー)で理論の構造をグラフにしたもの。
ノードは力のもとになるゲージ群、矢印は物質場を表します。
そして、クイバーに決まった操作を施すと別のクイバーに変わる、これを「突然変異(ミューテーション)」と呼びます。
まったく違う形に見えるクイバーでも、何回かの突然変異で互いに移り変われるなら、それらは双対な理論ということ。
逆にいえば、双対性の判定は「クイバーの迷路」のなかで変異の道筋を見つけるパズルにほかなりません。
問題は、ノードが少し増えるだけで組み合わせが爆発し、人間の手に負えなくなる点です。
AIが道を覚える
そこで登場するのが、機械学習の手法です。
研究チームは、トランスフォーマーや多層パーセプトロンといったネットワークに、大量のクイバーと変異の履歴を学ばせました。
たとえるなら、巨大な迷路の地図を読み込み、スタート地点とゴール地点を与えられたときに「次にどの方向へ進むべきか」を推測する才覚を養っているわけです。
さらに面白いのは、「パスファインダー」と呼ばれる道案内役を組み合わせたこと。
これはクイバー版のGoogleマップのようなもので、あてずっぽうに歩くよりはるかに賢く、最短ルートの候補を教えてくれます。
AIはその助言を受けながら、みずからも学習を重ねることで、計算量をぐっと抑えつつ高い正答率を出せるようになりました。
10個程度のノードをもつ中規模のクイバーでは、従来の決定的アルゴリズムを上回る性能を見せたといいます。
ベンチマークとしての可能性
この研究がもう一つ示唆しているのは、双対性をたどる問題が、AIの推論能力を測る格好のベンチマークになりそうだ、ということです。
グラフ構造の理解、長い手順の先を読む計画力、そして探索の効率化、そのどれもが現代的な知能の試金石。
物理学の深遠な問いが、人工知能の成熟度を映し出す試験台にもなる、というわけです。
終わりに
双対性という積年のパズルに、AIが賢い道案内役として加わった今回の試み。
まだ小規模なクイバーでの検証段階ではありますが、ゆくゆくは未知の双対性を発見する手がかりになるかもしれません。
図と矢印が織りなす数学の迷宮を、学習する機械がどう読み解いていくのか、これからも目が離せませんね。