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永遠の名機、Revox B77
ヴィンテージオーディオの世界で、そのデザインと耐久性から今なお愛され続けるオープンリールデッキ、Revox B77。
中古市場やオークションで見かけたとき、あるいはご自宅にある名機をふと見たとき、こんな疑問を持ったことはありませんか?
「これ、MK1(前期)なのか、MK2(後期)なのか?」
「具体的に中身は何が違うのか?」
見た目はそっくりなこの2台ですが、実は機能面と内部の設計には、エンジニアのこだわりを感じる「明確な違い」があります。
特にメンテナンスや修理を考えている方にとって、この違いを知っておくことは非常に重要です。
今回は、Revox B77のMK IとMK IIの違いについて、外観の見分け方からマニアックな基盤の違いまで、徹底的に解説します。
1. 発売時期と歴史的背景
まずは基本データからおさらいしましょう。
Revox B77は非常に長い期間製造されたロングセラーモデルです。
- MK I (Original): 1977年 ~ 1980年頃
初期のモデル。A77の後継として登場し、その完成されたデザインで世界中を席巻しました。 - MK II: 1980年 ~ 1998年頃
MK Iのフィードバックを元に改良されたモデル。特にプロやハイアマチュアの要望に応え、機能追加が行われました。
約20年にわたって製造されたため、市場に出回っている数も多く、両者が混在しています。
2. 【初級編】一発で見分ける!外観の違い
このラインより上のエリアが無料で表示されます。
パッと見は同じですが、フロントパネルを見ればすぐに判別可能です。
① ロゴと表記
- MK I: シンプルに “REVOX” のロゴのみであることが多いです。
- MK II: ロゴの下やパネルの一部に “MK II” と明記されている個体が多いです。
② コントロールパネル(最大の違い)
一番の決定打は、パネル右下のスイッチ群です。
- MK I: 速度切り替えスイッチなどはありますが、「可変ピッチノブ」はありません。
- MK II: ここに “Variable Speed”(可変速度) という小さなノブ、あるいは調整用の穴が存在します。
もし、あなたのB77の右下に小さなつまみがあり、再生速度を微妙に変えられるなら、それは間違いなくMK IIです。
3. 【機能編】実用面での進化
なぜMK IIが登場したのか?それは「現場の声」が反映されたからです。
決定的な差:バリアブル・スピード(ピッチコントロール)
MK IIには、標準で±10%のピッチコントロール機能が搭載されました。
- メリット: 録音時のテープ速度が微妙にずれている古いテープを再生する際、正しいピッチに補正できます。また、楽器のチューニングに合わせて再生速度を変えることも可能です。
- MK Iでこれを行うには、別売りの外部コントローラーが必要でした。
編集機能(Cueing)の操作性向上
テープを手で回して編集点を探す「スクラブ」のような作業をする際、MK IIではヘッドカバーを開けた状態での操作性が改善されています。
より直感的に編集作業が行えるようになっています。
4. 【上級・修理編】内部基盤(キャプスタンモーター)の違い
ここからは、修理やオーバーホールを志す方、あるいはメカ好きの方へ向けた「中身」の話です。
外見以上に、中身の基盤(PCB)には大きな変更が加えられています。
B77の心臓部とも言えるキャプスタンモーターの制御基盤。
ここがMK IとMK IIで全く異なります。
- MK I (Standard Speed Control):
部品番号: 1.177.320.xx など
非常にシンプルな定速制御回路です。安定性は高いですが、速度を変える機能は基盤自体に組み込まれていません。 - MK II (Vari-Speed Control):
部品番号: 1.177.325.xx など
可変速度を実現するために、専用のICや複雑な回路が追加されています。
【注意点】
オークションなどで「予備パーツ」として基盤を入手する際、MK I用とMK II用では互換性がない場合が多いため、必ず品番を確認する必要があります。
その他の回路変更
- オーディオ回路: 録音・再生アンプのコンデンサやトランジスタの値が、MK IIではノイズ特性改善のためにリビジョンアップされています。
- 入力セレクター: クロストーク(信号漏れ)対策が強化されている場合があります。
結論:どちらを選ぶべきか?
これからRevox B77を手に入れたいと考えている方へのアドバイスです。
- MK IIがおすすめな人:
- 古いテープをたくさん持っていて、ピッチのズレを補正したい。
- 楽器演奏と合わせて使いたい。
- 少しでも製造年が新しい方が安心(とはいえ30年以上前ですが)。
- MK Iでも十分な人:
- 純粋にオーディオとして音楽を楽しみたい(定速再生のみでOK)。
- 内部構造が少しでもシンプルな方が、将来的な故障リスクが低いと考える(ピッチコン回路がない分、シンプルです)。
どちらもスイスの精密技術が詰まった、素晴らしいデッキであることに変わりはありません。
自分の用途に合わせて、運命の一台を選んでみてください。
📢 動画でさらに詳しく解説!
文章だけでは伝わりにくい「キャプスタンモーターの速度調整方法」については、YouTubeでも解説しています。
基盤のどこを触ればいいのか?測定器はどう使うのか?
修理に興味がある方は、ぜひこちらの動画もチェックしてみてください。
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おまけ:Revox B77 MK III(マーク3)
ここで、Revoxファン全員が耳を疑い、そして歓喜した最新ニュースにも触れておきましょう。
B77の生産終了から約四半世紀。
なんと2023年末〜2024年にかけて、Revox社(Revox Audio AG)から公式に「Revox B77 MK III」が発表・発売されました。
これは単なる「中古の整備品(Refurbished)」ではありません。
Revox社が「伝説の再定義」として世に送り出した、新品のプロダクトです。
近年、アナログレコードやカセットテープの再評価が進む中、究極のアナログオーディオ、究極のハイレゾである「オープンリールテープ」への需要も、ハイエンド層を中心に高まっていました。
しかし、市場にあるのは40年以上前のヴィンテージ機ばかり。「最高の音質で聴きたいが、故障のリスクやメンテナンスの不安がある」というジレンマがありました。
そこでRevox社は決断しました。
「今の技術で、B77を蘇らせる」と。
- 完全な再設計: オリジナルのB77の設計思想を継承しつつ、オーディオ回路や制御系を現代の技術で刷新。
- 現代のテープに最適化: 現在入手可能な「Recording The Masters (RTM)」などの新品テープ(LPR35/SM900等)の特性に合わせて、工場出荷時に完璧にキャリブレーションされています。
- 仕様: 2トラック、ハイスピード(19/38 cm/s)、そして現代のハイエンド機器に合わせてXLR(バランス)端子も装備されています。
これは、過去の遺産を食いつぶすのではなく、「アナログテープサウンドを未来へ残す」という、メーカーの強い意志表明でもあります。
気になる価格は?(世界・国内価格の目安)
さて、この夢のようなMK IIIですが、価格もまた「夢のような」ハイエンド設定となっています。
- 世界価格(参考):
約 15,950ユーロ 前後
(アメリカドル換算で約- 17,000〜17,000〜18,000)
- 日本国内価格(目安):
現在の為替レート(1ユーロ=約160〜165円)で単純計算しても約260万円。
これに関税、輸送費、輸入代理店のマージンなどを考慮すると、約280万円 〜 330万円 ほどになると予想されます。
「車が買える値段」ではありますが、世界中の富裕層やスタジオ関係者からはすでにオーダーが入っているとのこと。
それだけ、この「B77」というブランドには価値があるのです。
MK I、MK II、そして奇跡の復活を遂げたMK III。
世代や中身の違いはあれど、共通しているのは「回転するリールを眺めながら、太く生々しい音に浸る」という、他には代えがたい体験です。
300万円の新品MK IIIを買うのも一つのロマンですが、
数万円〜数十万円で手に入れたヴィンテージのMK IやMK IIをメンテナンスしながら大切に使うことこそオーディオファンの醍醐味とも言えます。