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B77の前に、「神」がいた
前回の記事では、完成された名機「Revox B77」について解説しました。
しかし、Revoxの歴史を語る上で、絶対に避けて通れないモデルがあります。
それが Revox A77 です。
1967年の登場以来、「民生機でスタジオクオリティを実現した」として世界中に衝撃を与え、累計数十万台が生産されたベストセラー。
あのB77の基本設計は、このA77ですでに完成されていました。
しかし、約10年にわたるロングセラーだったため、A77にはMK IからMK IVまで4つのバージョンが存在します。
中古市場ではこれらが混在しており、「見た目が違うけど中身はどうなの?」「どれを買えばいいの?」と迷う方も多いはず。
今回は、A77の4つの世代の見分け方と、それぞれの特徴を徹底解説します。
1. 【MK I & MK II】輝けるシルバーの時代 (1967-1971)
初期のA77は、全体的に明るい配色が特徴です。
MK IとMK IIは外観が非常に似ているため、まとめて解説します。
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外観の特徴:シルバーとアルミの美学
- ボトムパネル(下部操作面):
美しいシルバー(アルミ色)のパネルが採用されています。これがMK III以降との最大の違いです。 - トップケース(筐体):
木製キャビネットが標準ですが、ポータブル用のプラスチックケース(グレー)のモデルも多く存在します。 - つまみ(Knobs):
金属の質感を活かした、シンプルで光沢のあるデザイン。
MK IとMK IIの見分け方(超難問)
正直なところ、外観だけでMK IとMK IIを区別するのはプロ(超マニア)でも困難です。
- MK I (1967-1969): 初期の初期モデル。信頼性にやや難があり、キャプスタン軸受(ベアリング)の仕様などが後のモデルと異なります。
- MK II (1969-1971): MK Iの不具合を修正したマイナーチェンジ版。リールを止めるブレーキ機構や、電子回路の信頼性が向上しています。
見分けるポイント:
シリアルナンバーや、内部の基盤を確認する必要がありますが、市場に出回っている「シルバーパネル」の多くは、メンテナンスの過程でMK II相当にアップデートされていることも多いです。
2. 【MK III】デザインの転換点 (1971-1974)
1971年、A77は大きくイメージチェンジを図ります。
よりプロフェッショナルで、精悍な顔つきになりました。
外観の特徴:ダークグレー(アンスラサイト)の登場
- ボトムパネル:
シルバーから、ダークグレー(アンスラサイト色)に変更されました。これにより、一気にモダンで落ち着いた印象になります。 - つまみ(Knobs):
デザインが一新され、「グレーのプラスチック製で、中心にアルミのプレートがある」タイプになりました。指掛かりが良くなっています。
機能・内部の進化
- 信頼性が飛躍的に向上し、現在中古市場で最もバランス良く取引されているのがこのMK IIIです。
- 電子回路の安定性が増し、ノイズ対策も進みました。
3. 【MK IV】完成された最終形 (1974-1977)
B77が登場する直前まで生産されていた、A77の最終進化系です。
このモデルが後のB77へとバトンを渡すことになります。
外観の特徴:ブルーロゴとB77への予感
- Revoxロゴ:
パネル左側のロゴが、それまでの黒/シルバー系から、鮮やかな「ブルー(青)」に変更されました。これがMK IVの決定的な証です。 - ボトムパネル:
MK IIIと同じダークグレーですが、質感が若干異なります。 - つまみ(Knobs):
ギザギザのついた**「B77と同じスタイルのつまみ」**が採用されました。操作性がさらに向上しています。
機能・内部の進化
- 入力アンプの改良: マイク入力などの回路が見直され、オーバーロード(音割れ)耐性が向上しています。
- Dolbyモデルの登場: ノイズリダクションシステム「Dolby B」を搭載したモデル(A77 Dolby)が本格的に普及しました(※ドルビー搭載機はロゴの下に表記があります)。
- テープ走行系の改良: テープへのダメージを減らすため、テンションアームやガイドの材質・形状が改良されています。
MK IVとB77について
MK IVになると、ほとんどB77のMK1と同じ仕様であることがわかります。
どちらを選ぶかは好みの問題ではありますが、実際A77の方がサイズは小型で小さいので持ち運びに便利です。
持ち運びというのは、ほとんどの人には縁がないでしょうが、Kotaro Studioでは、オープンリールテープも依頼があれば、フィールドレコーダーのように持ち運んで現場で使用するのでこのサイズの違いは大きいわけです。
もちろんサイズは小さい分重さはA77の方が重圧を感じるわけです。
また、テープのセットも、A77とB77とでは若干感覚が違うのが非常に面白いポイントです。
A77の方がテープをかけにくいのは事実、B77の方が圧倒的にテープがかけやすくなっています(その分大型になっておりサイズ感は犠牲になります)
もちろん他のテープレコーダー、スチューダーのものだと、ヘッドそのものが前面パネルよりもでっぱっているものもあり、フロントパネルよりも出ているものに関しては、テープのセットはかなりやりやすいです。
改造について
実際にA77とB77の圧倒的な違いについてサイズ感をピックアップしました。
では、このサイズ感、持ち運び以外にどんなメリットがあるのか?
そうです、改造のしやすいさというのがあります。
Kotaro Studioでは現在合計3台のB77と、1台のA77を所有していますが、うちB77:2台は金田式アナログバランス電流伝送DC録音専用機としてオーディオボードをすべて取り外した改造をしています。
A77であれば、サイズを小型化しているため、各種ボードやパーツがびっしりつまっており、改造はしにくいと思います。
例えば、ラズパイなどで、遠隔操作をするように改造するにも、ラズパイやM5stackなどを収納する部分がB77にはかなり余裕があってもA77はちょっと厳しいというのが正直なところでしょう。
そういう視点で選んでみても楽しいかもしれませんね!
超マニアック編:カタログには載らない幻モデルとは?
ここまでMK IからMK IVまでの「表の歴史」を解説してきました。
しかし、Revox A77の物語には、カタログには決して大きく掲載されない「裏の顔」が存在します。
それが、通称「STTA」(Special Tape Transport Application / 特殊テープ走行仕様)や、産業用・放送用としてカスタムされたモデル群です。
これらは、一般家庭で音楽を聴くためではなく、警察、空港、放送局、研究所などが「特定の任務」を遂行するために発注した特殊部隊のような機体です。
もし、あなたがオークションで「なんだか雰囲気の違うA77」を見つけたら、それはこの特殊仕様かもしれません。
① 驚異の長時間録音「SLS(Super Low Speed)」
見た目は普通のA77ですが、テープを回すと異常に遅い。
これは「監視・ロギング用」の仕様です。
- 速度: 2.38 cm/s(15/16 ips)という超低速。
- 用途: 空港の管制塔との通信記録や、警察の通信傍受記録用として、1本のテープで12時間〜24時間の連続録音を行うためのものです。
- 見分け方: キャプスタンシャフト(軸)が極端に細い(約3mm)のが特徴です。
- 注意: これで音楽を録音しても、高域が全く出ず、ハイファイオーディオとしては使えません。「壊れている」と勘違いされがちですが、正常な仕様です。
② プロの現場仕様「HS(High Speed)」2トラック
こちらは逆に、マスターテープを作成するために特化した仕様です。
- 速度: 19 cm/s と 38 cm/s(15 ips) の2速。
- 用途: 放送局やレコーディングスタジオでのマスター録音。
- 見分け方: キャプスタンシャフトが非常に太い(約9mm)ため、ヘッドカバーを外せば一発で分かります。
- 価値: 音質はA77の中で最強。現在でも最も高値で取引される「当たり」の仕様です。
③ 放送局専用「ORF」などのバリエーション
オーストリア放送協会(ORF)などのために作られたモデルは、入出力端子が民生用のRCAピンではなく、業務用のXLR(キャノン)端子に変更されています。
内部の基準レベルも放送局仕様に変更されているため、現代のスタジオ機器との接続には最適です。
Revoxの沼は、底が見えない。
「STTA」や特殊仕様のA77は、パネルに明記されていないことも多く、背面のシールや、キャプスタン軸の太さ、そして「音を出した瞬間」に初めて正体が判明することも珍しくありません。
もしあなたが間違えて手に入れたA77が、MK IVの顔をして超高速で回ったり、あるいはXLR端子が生えていたりしたら……おめでとうございます。
あなたは「選ばれし者」だけが辿り着ける、Revoxの最深部に足を踏み入れました。
海外では投資物件としても売買されている超超超レアものです。
MK I〜MK IVの違いなんて、ほんの入り口に過ぎないのです。
さあ、この深くて心地よい沼で、一生をかけてテープを回し続けましょう。
Revox A77 STTA仕様の投資価値とは?本記事では、STTA仕様のA77がなぜ特別なのか、通常モデルとの違いや見分け方、そして将来的な投資価値について、初心者にもacademy.kotarohattori.com
比較まとめリスト:あなたにおすすめなのは?
- ヘッドの摩耗:
A77のヘッドは「Revox独自形状」です。摩耗して平らになっていると、高域が出ません。MK IVだからといってヘッドが死んでいれば、整備されたMK Iには勝てません。 - Rifa製コンデンサ:
A77/B77共通の持病ですが、電源部などに使われているRIFA製の古いコンデンサは、経年劣化で発煙・破裂することがあります(通称:爆竹)。
「フルレストア済み」と書かれていても、ここが交換されているかを必ずチェックしましょう。
また、こういったコンデンサ類の交換、レストア、リペアはKotaro Studioで取り扱っております。