【2025年最新】オランダ式の最新・実装可能な病害虫対策

露地中心+混在型運用に合わせ、オランダ式の最新・実装可能な病害虫対策を「予防→監視→介入」を軸に整理しました。

2017年本の枠(経験則+単一気象指標)から、データ駆動IPM×植物生理(Plant Empowerment)へと確実に進化しています。

予防(最重要):侵入・発病そのものを減らす

  • 衛生・バイオセキュリティ(ToBRFV等)
    ・人・資材・種子起因のウイルス/細菌を遮断:ゾーニング、手指/靴底消毒、工具の区画専用化、苗ロット隔離試験。WURの遺伝資源管理ではトマト種子に対しToBRFV等の検査と隔離を徹底(露地苗にも適用可)。
  • 物理的バリア(温室・ハウス・育苗)
    スリップス(西花アザミウマ)を通しにくい防虫ネットを使いつつ通風を確保できるメッシュ設計(例:高通気のインセクトスクリーン)。
  • 気候設計で病害成立を物理的に外す
    結露/葉濡れ時間(Leaf Wetness Duration)を短く:夜間の放射冷却対策・除湿・送風でボトリチス(灰色かび)リスク低減。WUR/研究機関のモデルは露点と葉温差に基づきリスクを評価し、換気・加温・除湿の最適化に繋げます。
    ・Plant Empowerment流の湿度・絶対湿度(AH)と作物近傍RHの両管理で、結露回避と気孔開口の両立(同時に病害圧を下げる)。
  • 作付け設計(露地)
    プッシュプル/花資源帯で天敵を呼び込み、アブラムシ・コナガ等の圧を下げる「VIPP(野菜版プッシュプル)」の検証が前進。

オランダやヨーロッパの先進的な農業では、病害虫管理の一つとして「VIPP(Vegetable Integrated Push-Pull)」という戦略が注目されています。

これは、野菜畑の中や周囲に花や香りのある植物を組み込み、害虫の発生を抑えると同時に天敵を呼び寄せるというものです。

大規模な農場だけでなく、家庭菜園や小規模農園でも応用可能な方法であり、農薬の使用を減らしながら収穫量や品質を維持できる点が魅力です。

この手法の鍵は「花資源帯」と呼ばれるゾーンの設置です。

天敵の多くは、害虫だけでなく花粉や蜜も栄養源として利用します。

特に、オリウスのような捕食性昆虫や、小型の寄生蜂、さらには一部のカブリダニ類は、害虫がまだ発生していない時期でも花資源帯に集まり、そこで餌を得ながら生存します。

結果として、害虫が発生したときには既に天敵が畑に常駐しており、初期段階から素早く対応できるのです。

花資源帯に適した植物は、長期間にわたって花を咲かせ、蜜や花粉を豊富に供給できる種類が選ばれます。

例えば、アリッサムは低温期にも開花し、寄生蜂やオリウスを呼び込む効果が高いことで知られています。

マリーゴールドは特有の香りで一部害虫を忌避しつつ、根から分泌される成分でセンチュウ類の発生を抑えることもできます。

ヒマワリはオリウスを引き寄せるだけでなく、その高さが防風効果をもたらし、畑全体の微気象改善にも役立ちます。

また、フェンネルやディル、コリアンダーのようなセリ科植物は小型寄生蜂にとって優れた蜜源となり、コナガやアオムシ類の発生抑制に寄与します。

VIPPは、天敵を引き寄せる「プル(Pull)」の要素と、害虫を寄せつけない「プッシュ(Push)」の要素を組み合わせることで、効果を最大化します。

例えば、畝間に花資源帯を設けて天敵を定着させつつ、畝端にはバジルやニームのような忌避効果を持つ植物を植えることで、畑に侵入してくる害虫の数を減らすことができます。

オランダの試験では、このような配置によりアブラムシやコナガの被害が軽減し、農薬散布回数を半分程度に減らしても収量を維持できたという報告があります。

家庭菜園でVIPPを活用する場合は、畑の一角を常に何らかの花が咲いている状態に保つことが重要です。

開花時期が異なる複数の花を組み合わせれば、季節を通して天敵の餌資源を絶やさずに済みます。

害虫の発生期より前に花を咲かせておくことで、天敵が先に畑に定着し、害虫の増殖を抑えやすくなります。

さらに、花資源帯は景観を美しく保ち、訪花昆虫による受粉促進にもつながるため、一石二鳥の効果が期待できます。

このように、VIPPは単に「花を植える」というシンプルな行為に見えて、その背後には天敵の生態や植物間相互作用に基づいた科学的な設計があります。

小さな菜園でも導入できる持続的な害虫管理法として、農薬依存から脱却し、より自然に近い形で作物を守るアプローチと言えるでしょう。

花資源植物 呼び込む主な天敵 効果のある害虫 備考・特徴
アリッサム(Lobularia maritima) 寄生蜂、オリウス アブラムシ、コナジラミ 長期間開花、低温期でも強く蜜源が豊富
マリーゴールド(Tagetes spp.) オリウス、テントウムシ類 アブラムシ、ネコブセンチュウ(根圏効果) 香りによる害虫忌避、根からのセンチュウ抑制効果
ヒマワリ(Helianthus annuus) オリウス スリップス 高身長で防風効果あり、夏場の蜜源
フェンネル(Foeniculum vulgare) 小型寄生蜂 チョウ目幼虫(コナガ等) 香りと蜜で寄生蜂を誘引、長期間開花
ディル(Anethum graveolens) 寄生蜂 アブラムシ、アオムシ類 発芽・育成が容易、夏場に開花
コリアンダー(Coriandrum sativum) 寄生蜂 コナガ 初夏に開花、蜜源として寄生蜂活性を向上

また、オランダの先進的な温室や混在型栽培では、病害の発生要因を“そもそも作らない”という考え方が広く採用されています。

特に灰色かび病(ボトリチス)のような湿度依存型の病害は、夜間の結露や長時間の葉の濡れが最大の引き金となるため、この条件を制御することが極めて重要です。

夜間、晴れて風のない日は放射冷却によって葉面温度が周囲の空気温度より下がり、やがて露点温度に達すると葉に水滴が付き始めます。

この状態が長く続くほど、病原菌は繁殖しやすくなります。

そこでオランダのWUR(ワーゲニンゲン大学・研究所)などの研究機関では、葉温と露点温度の差に基づいて「結露発生リスク」を数値化し、それに応じて換気や加温、除湿を組み合わせる制御モデルを開発しています。

これにより、例えば夜間に加温パイプを少し温めて葉温を露点より高く保ったり、早朝に軽く換気して湿度を下げ、葉を乾燥させるなどの戦略が自動的に実行されます。

さらに近年は、「Plant Empowerment(プラントエンパワーメント)」という栽培理論が、この湿度管理に新しい視点を加えています。

従来は相対湿度(RH)だけを管理することが多かったのに対し、この理論では絶対湿度(AH)と作物近傍の相対湿度を同時に監視します。

絶対湿度は空気中に含まれる水蒸気量の実測値で、温度変化に左右されないため、植物の水分バランスをより正確に把握できます。

一方、作物近傍の相対湿度は病害発生リスクの直接的な指標です。

この二つを合わせて管理することで、気孔を開かせて光合成を促進しながらも、葉の表面が結露しないような環境を作り出すことが可能になります。

こうした制御は大型温室だけのものと思われがちですが、小規模栽培や家庭菜園でも応用できます。

例えば、夜間に簡易温室やトンネルを閉める前に一度軽く換気して湿気を逃がす、あるいは夜間の温度低下が激しい日には小型ヒーターやキャンドルヒーターを使って葉温を維持するなど、低コストの工夫でも結露を抑えることは十分に可能です。

結露の抑制は、単に病害を防ぐだけでなく、翌朝の葉面乾燥が早くなることで農作業の開始もスムーズになります。

湿度制御をうまく行えば、病害圧が下がるだけでなく、植物は日中に気孔をしっかり開いて光合成を行い、結果として収量や品質の向上にもつながるのです。

監視:早期検知と定量化(自動化も進展)

  • 粘着トラップ×色/光学最適化
    スリップスの飛翔/着地の色応答解析に基づき、トラップ設計・配置が最適化(3Dトラッキング研究)。
  • 微気象・葉濡れ・胞子圧DSS
    ボトリチスDSS:温湿度・葉温・葉濡れ時間から「高リスク時間帯」を示し、事前の除湿・温度戦略を指示。
  • AI/自律温室のIPM統合(施設):
    ・2024年のAutonomous Greenhouse Challengeで、生物農薬(天敵)導入の種類・投入数の最適化が採点要素に。AI栽培と生物防除の統合が実運用段階に。
対象害虫 天敵の種類(学名) 捕食/寄生形態 備考・主な適用作物
スリップス(アザミウマ類) オリウス(Orius laevigatus) 捕食(卵・幼虫・成虫) 花粉で定着、トマト・ピーマン・ナス等で有効
スワルスキーカブリダニ(Amblyseius swirskii) 捕食(幼虫・卵) 高温条件に強い、露地トンネル栽培にも適応
ヒメハナカメムシ(Orius insidiosus 他) 捕食(幼虫・成虫) 温帯地域での露地利用、花期定着型
コナジラミ類(タバコ・オンシツ等) オンシツツヤコバチ(Encarsia formosa) 寄生(幼虫) 温室トマト・ピーマンで古くから使用
コレマンアブラバチ(Eretmocerus eremicus) 寄生(幼虫) 高温条件下に強く、Encarsiaと併用
スワルスキーカブリダニ(Amblyseius swirskii) 捕食(卵・若齢幼虫) スリップス同時防除が可能
アブラムシ類(モモ・ワタ・ジャガ等) アブラバチ類(Aphidius colemani 等) 寄生(成虫が産卵) 施設・露地とも広範囲適用
ヒメカメノコテントウ(Adalia bipunctata) 捕食(全ステージ) 葉菜・果菜問わず利用可
ナミテントウ(Harmonia axyridis) 捕食(全ステージ) 露地利用に適応性あり
ナナホシテントウ(Coccinella septempunctata) 捕食(全ステージ) 地域在来種として導入可
ハダニ類(ナミ・カンザワ等) チリカブリダニ(Phytoseiulus persimilis) 捕食(卵・幼虫・成虫) 高湿環境下で活動性高い
ミヤコカブリダニ(Neoseiulus californicus) 捕食(全ステージ) 乾燥や高温条件に耐性あり
アミメヒメハダニ(Amblyseius andersoni) 捕食(卵・幼虫) 広範囲な温度条件に対応
チョウ目害虫(コナガ・オオタバコガ・ヨトウ類) トリコグラムマ類(Trichogramma spp.) 寄生(卵) 卵段階で密度抑制、露地葉菜・果菜に
バチルス・チューリンゲンシス製剤(Bacillus thuringiensis) 生物農薬(細菌毒素) 幼虫摂食後に致死、初期発生時有効
核多角体病ウイルス(NPV) 生物農薬(ウイルス) 特定種に高選択性、幼虫発生時処理
アメリカミドリヒメヨコバイ F. vespiformis(捕食性スリップスの一種) 捕食(幼虫・成虫) 温室ピーマン等で試験導入
タマネギバエ等のハエ類 ステインネマ属線虫(Steinernema feltiae 等) 寄生(幼虫体内) 土壌処理で幼虫段階を駆除

オランダの環境制御型農業では、病害虫対策の柱として「生物農薬=天敵の計画的な導入」が定着しています。

近年では、単に天敵を放すだけではなく、その種類や投入数を科学的に最適化することで、より安定した防除効果とコスト効率を両立させる試みが進んでいます。

従来、天敵の放飼は「経験と感覚」に頼る部分が大きく、害虫が発生してから慌てて投入するケースも少なくありませんでした。

しかし、この方法では初期の被害を防ぎきれず、結局は化学農薬に頼る場面も多くなります。

そこでオランダの研究機関や先進農家は、害虫の発生パターン、天敵の生態、そして作物の生育ステージをデータとして蓄積し、「いつ・どの種類を・どれくらいの量」投入すべきかをモデル化しています。

この最適化の考え方では、まず対象となる害虫の発生予測を立てます。

例えば、コナジラミが温室内で発生しやすい条件や時期をあらかじめ把握しておき、その数週間前に寄生蜂(オンシツツヤコバチやコレマンアブラバチ)を少量ずつ放しておきます。

これにより、害虫が増え始めた瞬間から天敵が活動を開始でき、被害の拡大を防げます。

同様に、スリップス対策ではスワルスキーカブリダニを予防的に全体へ散布し、花期に合わせてオリウスを追加投入するなど、複数の天敵を「役割分担」させる手法が取られます。

投入数も重要な要素です。

天敵は多ければ良いというものではなく、過剰投入はコストの無駄になるだけでなく、餌となる害虫が少なければ天敵自体が減ってしまいます。

逆に少なすぎれば害虫の繁殖スピードに追いつけません。

そこで、葉あたりの害虫数や粘着トラップの捕獲数をもとに、投入数を週単位で調整します。

最近ではAIやシミュレーションソフトを使い、害虫密度の推移と天敵の繁殖曲線を同時に計算し、最小投入で最大効果を出す放飼計画を立てる事例も増えています。

こうした最適化は、大規模温室だけでなく小規模農園や家庭菜園にも応用可能です。

例えば、畑の一部を害虫観察エリアとして定期的にチェックし、その結果に基づいて少量の天敵をスポット投入する方法です。

天敵はインターネットや農業資材店で小ロットでも入手できるため、計画的に使えば化学農薬の使用を減らし、より安全で環境負荷の少ない栽培が実現できます。

個人での家庭菜園

家庭菜園レベルだと「花で天敵を誘引する」戦略はかなり相性がいいです。

理由はシンプルで、低コスト・低管理負担で効果を得やすいからです。

特に露地や半屋外型の菜園では、害虫はどうしても飛来するので、常に天敵が“待ち構えている”状態を作れる花資源帯は強力です。

介入・IPM:生物防除→物理→ケミカルの順

  • 天敵昆虫「基幹3種」(果菜・葉菜での柱)
    1. オリウス(Orius laevigatus):スリップス卵~成虫を捕食、花粉で定着しやすく予防投入に有効。
    2. スワルスキーカブリダニ(Amblyseius swirskii):高温下でも活性が高く、スリップス幼虫+コナジラミ卵幼虫に効く。補助餌で“常備軍”化。
    3. 寄生蜂(Encarsia/Eretmocerus):コナジラミ系に。(オランダ温室の定番)
  • 最新知見
    捕食者の“多獲物系”効果(見かけの競争)を活用し、スリップスとコナジラミの同時抑制設計。
    天敵の新候補:F. vespiformis(捕食性スリップス)によるアメリカミドリヒメヨコバイ/スリップス対策の温室ピーマン試験(2025)。
    メタ解析(2025):天敵は平均51–78%のスリップス密度低減で、薬剤(56–79%)に匹敵する効果。多様な天敵の組合せが鍵。
  • 導入設計(例:トマト/ピーマン)
    予防的にスワルスキーを面散布+花期にオリウス大量定着、粘着板で侵入初期を捕捉、短サイクルの選択的薬剤は最小限に。

完全屋内栽培は?!

家屋の中でLED栽培のように完全に外界から遮断された環境を作る場合、基本的には害虫被害はほぼゼロにできます。

これは商業用の「完全閉鎖型植物工場」と同じ理屈で、外部から害虫の侵入ルートを断てば、内部で繁殖することがなくなるからです。

ただし、いくつか注意点があります。

1. 害虫ゼロは理論上可能だが「侵入ゼロ管理」が前提

完全閉鎖型でも、苗や培地、作業者の服や道具を通じて害虫や病原菌が入り込む可能性はあります。

商業施設では、作業前に衣服や靴を専用の物に着替え、資材はすべて事前検査し、エアシャワーや防虫ネットを通して搬入します。

家庭レベルだとここまで厳密にしないため、わずかな侵入はあり得ると考えた方が現実的です。

2. LED完全制御は「虫対策」だけがメリットではない

閉鎖型LED栽培のメリットは、害虫回避だけでなく、温度・湿度・光・CO₂をすべて理想状態に設定できることです。

これにより、露地や温室では気象に左右される部分がほぼなくなります。

ただし、設備・電力コストが高く、家庭菜園では採算度外視の趣味要素が強くなります。

3. 家庭での現実的な選択肢

  • 露地・ベランダ・庭先:花資源帯+防虫ネットで天敵誘引と侵入抑制を組み合わせるのが最適。
  • 半閉鎖型(簡易温室+LED補光):外界との接触を減らしつつ、花資源や天敵導入を最小限に抑える。
  • 完全閉鎖型(室内LED栽培):防虫対策はほぼ不要。ただし栽培面積が小さく、初期コストが高い。
朝比奈幸太郎

音楽家:朝比奈幸太郎

神戸生まれ。2025 年、40 年近く住んだ神戸を離れ北海道・十勝へ移住。
録音エンジニア五島昭彦氏より金田式バランス電流伝送 DC 録音技術を承継し、 ヴィンテージ機材で高品位録音を実践。
ヒーリング音響ブランド「Curanz Sounds」でソルフェジオ周波数音源を配信。
“音の文化を未来へ”届ける活動を展開中。