M5F9Pを使った単独測位で測位異常が出た場合は、DOPの数値も異常値なことがあります。
DOPとはなにか?この記事では詳しく解説していきます。
DOPとは?
DOP(Dilution of Precision)=幾何精度劣化率
GNSS(GPS, QZSS, Galileo, GLONASSなど)で得られる位置の精度の良し悪しを「衛星の配置の幾何的条件」から評価する指標のことです。
DOPは「衛星の配置がどれだけ良いか悪いか」を数値化していて、
- 小さい数値 → 衛星が広くバランスよく配置されている(高精度)
- 大きい数値 → 衛星が偏って配置されている(低精度)
例えばこちらはGPSMONで計測したデータになりますが、この測位で誤差が約2km発生していました。
DOPが異常なのがわかります。

DOPは測定誤差そのものではなく、衛星配置による誤差増幅率を表しています。
受信機の測定誤差 × DOP = 実際の位置誤差(概算)
それぞれH, V, Pの役割について見ていきましょう。
H,V,Pとは?
項目 | 正式名称 | 意味 |
---|---|---|
H | HDOP (Horizontal Dilution of Precision) | 水平方向(緯度・経度)の精度劣化率 |
V | VDOP (Vertical Dilution of Precision) | 鉛直方向(高度)の精度劣化率 |
P | PDOP (Position Dilution of Precision) | 3次元位置全体(水平+鉛直)の精度劣化率 |
(1) HDOP = 99.99
- 通常の範囲:1〜3(良好)/10以上(悪い)
- 99.99は「測位が成立していないか、無効値」を意味
- 水平方向の精度が計算できない、または極端に悪い状態
- 原因例:衛星配置の偏り、測位解が未確定、測位演算の内部エラー
(2) VDOP = 99.99
- 通常の範囲:1〜3(良好)/5以上(悪い)
- 99.99は鉛直方向の精度が計算不能または極端に悪い
- 高度方向は衛星配置の影響を強く受けるため、もともとDOPは大きくなりやすいが、99は異常値
- 原因例:高仰角衛星不足、仰角分布の偏り、信号ロスト
(3) PDOP = 99.99
- PDOPは位置全体の総合評価で、計算式はおおよそ PDOP=HDOP2+VDOP2PDOP = \sqrt{HDOP^2 + VDOP^2}PDOP=HDOP2+VDOP2
- HDOP, VDOPがともに99.99なのでPDOPも99.99になる
- 測位全体が成立していないか、精度的に無意味な状態
DOPの種類
DOPにはいくつかの種類があり、目的に応じて使い分けられます。
略称 | 名称 | 意味 | 主に影響する座標成分 |
---|---|---|---|
GDOP | Geometric DOP | 全体の総合評価 | 3D位置 + 時刻誤差 |
PDOP | Position DOP | 位置精度の評価 | 3D位置 |
HDOP | Horizontal DOP | 水平方向の精度評価 | 緯度・経度 |
VDOP | Vertical DOP | 鉛直方向の精度評価 | 高度 |
TDOP | Time DOP | 時刻精度の評価 | 時刻 |
RDOP | Relative DOP | 相対位置測位の評価 | 差分測位 |
数値の目安
DOP値 | 評価 | 状態 |
---|---|---|
1.0以下 | 最良 | RTKや精密測位向き。広く分散した衛星配置 |
1.0〜2.0 | 非常に良い | 高精度地図、測量用途 |
2.0〜4.0 | 良い | 一般測位に十分 |
4.0〜6.0 | やや悪い | 位置誤差が増え始める |
6.0〜10.0 | 悪い | 測位誤差が大きくなる。慎重な利用が必要 |
10以上 | 非常に悪い | 測位結果はほぼ信用できない |
99.99 | 測位不能または無効値 | 計算不能状態 |
今回のHDOP 99.99は「測位成立していないか、受信機が無効値を出している」状態です。
この場合、衛星数が多くても正確な位置は計算できません。
DOPが悪化する原因
- 衛星が偏っている(同じ方向に固まって見える)
- 建物の谷間、山間部、狭い谷などで起こりやすい
- 低仰角の衛星が多い
- 水平方向の配置は良くても、高度が似通っていると精度低下
- 可視衛星が少ない
- 4基ギリギリだと配置が悪化しやすい
- マルチパス影響
- 反射波が混ざって衛星方向の計算が誤る
なぜDOPが誤差を増幅するのか(世界一わかりやすい例)
衛星測位は「衛星からの距離の交点」で位置を決めます。
衛星配置が理想的だと、交点はシャープに一点に決まりますが、偏っていると交点がぼやけます。
例え話
- 良い配置(低DOP) →
「交差する2本の道が直角に交わる交差点」=位置がすぐ特定できる - 悪い配置(高DOP) →
「交差する道がほぼ平行」=交差点が曖昧で、どこかわかりにくい
まとめ
- DOPは精度の良し悪しの指標で、値が小さいほど良い
- HDOP=99.99は、測位不成立またはデータ無効
- 単独測位でもオープンスカイならHDOP 1〜2が普通
- F9Pで2km誤差が出るときは、ほぼ確実にDOP異常や信号障害が原因

音楽家:朝比奈幸太郎
神戸生まれ。2025 年、40 年近く住んだ神戸を離れ北海道・十勝へ移住。
録音エンジニア五島昭彦氏より金田式バランス電流伝送 DC 録音技術を承継し、
ヴィンテージ機材で高品位録音を実践。
ヒーリング音響ブランド「Curanz Sounds」でソルフェジオ周波数音源を配信。
“音の文化を未来へ”届ける活動を展開中。