ハイブリットを目指すための垂直農法への理解

都市の真ん中で、季節にも天候にも左右されず、毎日同じ品質のレタスが採れる。

農薬はほぼ不要で、水は循環再利用。

垂直農法(Vertical Farming/完全人工光型植物工場=PFAL)が提示するのは、そんな“制御できる農業”の世界観です。

けれど、その背後では強力なLED照明と空調が昼夜働き、電力という燃料を食べています。

オランダの温室園芸が長年培ってきた「太陽を最大限に活かし、足りない分だけ機械で補う」という哲学と比べると、垂直農法は“すべてを人為的につくる”発想です。

最終的に、「光(太陽かLEDか)」「空気(温湿度・CO₂・気流)」「水(養液)」の三要素のうち、どれを自然から借り、どれを人工で作るかをイメージしてください。

メリットデメリットを論理的に考えて取捨選択していくことこそ非常に大事な要素となりえます。

垂直農法とは何か——工場化された三つの循環

垂直農法は、建物内に多段ラックを組み、養液で栽培し、LEDで光合成を起こさせる方式です。

要点は「光」「空気」「水」の三循環。

光は太陽の代わりにLEDが担います。

波長(赤・青・白・遠赤)の配合と強度、点灯時間の組み合わせで、光合成の量(DLI)と形態(徒長を抑えるか、葉を広げるか)を緻密に操れるのが利点です。
空気は温度・湿度・CO₂・気流で構成されます。

温度と湿度は蒸散のアクセルとブレーキ、CO₂は光合成の燃料、気流はムラの矯正役。

密閉空間ではわずかな偏りが生育差につながるため、送風設計と除湿の設計が“影の主役”になります。

水は土の代わりに循環する養液で、pHとEC(濃度)、温度、溶存酸素が生命線です。

消毒・ろ過・補給を回す閉鎖ループにより、水使用量は露地に比べて桁違いに少なくできます。

オランダ式との関係性?「太陽中心」か「人工光中心」か

オランダのハイテク温室は、太陽光を主力に、ヒートパイプやスクリーン、時に補光LEDを“必要最小限”に重ねて奇跡の生産性を達成してきました。

Plant Empowerment(次世代栽培)の思想は、植物のエネルギー収支・水分収支・同化産物収支のバランスをとり、結露を避けつつ気孔を開かせ、日射に応じて温度や湿度の目標を動かすという“理にかなった省エネ”です。

垂直農法は舞台が屋内に移り、太陽を使わない代わりに「光・空気・水の三収支を完全に設計し直す」アプローチになります。

つまり、オランダ式の理屈を人工光の世界へ翻訳する——それが現在の最前線となっています。

強み——水・土地・衛生・供給の“都市適性”

垂直農法の魅力は、都市に最適化されていることに尽きます。

閉鎖循環により水の使用は劇的に少なく、耕地面積が限られる場所でも多段化で収量を稼げます。

害虫の侵入は物理的に遮断しやすく、農薬を限りなくゼロに近づけられるのも特徴です。

都市のすぐ近くで毎日収穫できるため鮮度は高く、在庫ロスも輸送距離も減らせます。

味や栄養価を狙って光の波長やCO₂を調合できる“レシピ発想”は、温室・露地にはない表現力です。

弱み——エネルギーという“見えない土壌”

最大の壁はエネルギーです。

光も冷房も除湿も、すべて電気で賄うため、電力価格・電源のカーボン強度・機器効率の三点が経済性と環境負荷を決めます。

LEDが効率化しても、照らした光は熱にも変わるため、最終的には空調で捨てる“潜熱の処理”が残ります。

ここが垂直農法の本丸で、照明×空調×除湿を一体最適化できるかどうかで勝負が決まる、と言ってよいでしょう。

もう一つの現実は作物適性です。

葉菜やハーブは短サイクル低DLIで合理的ですが、トマトなど果菜は光・空調コストが重くなりがち。

将来、屋内特化品種や動的制御の洗練が進めば、この境界は動きますが、いまのところ“葉物先行”がセオリーです。

どう最適化するか——固定管理から“動的管理”へ

垂直農法のコストとフットプリントを縮める主役は動的制御です。

日内や曜日によって電力の価格は変わります。

ならば、安い時間に照度を厚くしてDLIを稼ぎ、高い時間は薄くする。

冷房は電力が余る時間帯に冷熱を作って蓄え、湿度は夜間にまとめて落とす。

CO₂は光が強い時間に集中的に入れる。——光・空調・CO₂・除湿を“同時に動かす”ことで、同じ収量を少ないエネルギーで達成できます。

設計の要は、LEDの配光と反射(無駄光の再利用)、棚間の気流(ムラの除去)、除湿の熱回収(捨てる熱を戻す)、そして養液の温度管理(根から省エネ)です。

ここに再生可能エネルギーの調達やピークシフトを重ねると、環境負荷とコストの双方が可視的に下がります。

温室・露地との“正しい比較”——数字の読み方

垂直農法は水と土地に圧倒的に強くエネルギーに弱い

温室はその中間で、露地は自然任せだが環境負荷は小さい。

比較する際に忘れてはならないのは、電源の中身(再エネ比率)と、何を育てるか、どこで売るか、どの季節か、という前提の違いです。

同じ“1kgのレタス”でも、都市の直販でロスがほぼゼロなら、フットプリントの割高分を価値で吸収できることがあります。

逆に、再エネの乏しい地域で電力価格が高いと、垂直農法は厳しくなります。

つまり、垂直農法は普遍的な正解ではなく、**条件に応じて強くなる「道具」**です。

水が貴重、土地がない、衛生が最優先、都市が近い——こうした条件が揃うほど、その道具は輝きます。

戦略としての導入——全量PFALか、ハイブリッドか

実装の現場では、いきなり“全部屋内”よりも、ハイブリッドの選択が増えています。

たとえば、春秋は温室(太陽主力)で、真夏や真冬だけ垂直農法で品質を守る。あるいは苗は屋内で均質に育て、仕上げは温室や屋外で太陽を使う。

こうした段取りの妙が、収量・品質・コスト・環境負荷のバランスをとる近道です。

家庭規模でも考え方は同じ。

葉物・ハーブを中心に、DLI目標を決め、LEDと除湿をミニマムに動かす。

CO₂は密閉度が高い場合にだけ短時間集中で入れる。

養液は閉鎖循環でこまめに衛生管理。

数値は「kWh/kg」「L/kg」「作業時間/kg」で記録し、少しずつ“データ栽培”に寄せていく。

これが、迷わず上達する最短ルートです。

これから——“品種×制御”時代へ

垂直農法の次のブレイクスルーは、屋内特化の品種アルゴリズムです。

弱光でもおいしい、低温でも香り成分が乗る、根が高密度でも疲れない——そんな形質を目標にした育種が始まり、同時に、センサーとAIが生育のモデル(デジタルツイン)を回し、光・空気・水を“先回りで”調整する段階に入っています。

太陽の下で磨かれたオランダ式の合理性が、人工光の世界に移植され、**「固定管理」から「状況に合わせて賢く変える管理」**へ。

垂直農法は、理論と実装が揃ったときに、本当の実力を見せます。

朝比奈幸太郎

音楽家:朝比奈幸太郎

神戸生まれ。2025 年、40 年近く住んだ神戸を離れ北海道・十勝へ移住。
録音エンジニア五島昭彦氏より金田式バランス電流伝送 DC 録音技術を承継し、 ヴィンテージ機材で高品位録音を実践。
ヒーリング音響ブランド「Curanz Sounds」でソルフェジオ周波数音源を配信。
“音の文化を未来へ”届ける活動を展開中。