RTK測位のための基地局〜有料から無料まで

RTK測位では、基準局(CORS)からリアルタイムに補正データを受信することで、数センチメートル級の高精度位置決めを実現します。

しかし、その基準局サービスには「無料」と「有料」が存在し、用途や要件に応じて選択肢が分かれます。

この記事では、なぜ無料/有料サービスがあるのかを解説し、まずは善意の基準局とは何か、その仕組みや特徴を詳しく説明します。

そのうえで主要な無料サービス、有料サービスの概要とメリット・デメリット、さらにM5F9P受信機との接続実績についてまとめます。

なぜ無料サービスと有料サービスがあるのか

  • 無料サービスの目的
    • 学術研究やホビー用途向けに、国や自治体、個人が社会貢献として無償でCORSネットワークを公開
    • 初期投資やランニングコストを抑えて、GNSS測位の普及を図る
  • 有料サービスの目的
    • ビジネス用途や建設測量など、24時間365日の高信頼性が求められる業務向けに、SLA(Service Level Agreement)を保証
    • 専用通信回線や保守サポート、カバレッジ保証など、安定性・サポート性を提供
    • 大規模ユーザーからの収益を得て、常に最新技術・基地局を整備・運用

善意の基準局とは?

善意の基準局とは、研究機関や大学、個人ユーザーが自ら設置したGNSS受信機とアンテナをインターネット経由で公開し、誰でも利用できるようにしたボランタリーCORS(Continuously Operating Reference Station)ネットワークです。

  • 運営主体:大学の研究室、地域の測量愛好家、企業の研究部門など多様
  • 公開手段:NTRIPキャスタを介してRTK補正データを配信
  • 利用メリット:登録局数が増えるほど測位エリアが拡大し、初期費用ゼロでRTK測位に挑戦できる
  • 運用上の注意:善意ベースなので保守体制はまちまちで、データストップや更新周期の不一致が起きやすい

主な無料サービス

善意の基準局掲示板

  • 概要:ボランタリーCORSを一覧化したWeb掲示板で、国内外合わせて約80局が登録
  • 特徴
    • 利用エリアに近い局をWeb上で検索し、NTRIPクライアント設定情報(IP/ポート/マountpoint)を取得
    • 完全無料で、登録された局が稼働していれば即RTK測位が可能
  • 留意点:局ごとに更新周期や品質が異なり、夜間メンテナンスなどで突然停止することがある

rtk2go.comについて

rtk2go.comは、世界中のGNSS基準局(CORS)補正ストリームを無償で公開・共有するためのコミュニティベースのNTRIPキャスターです。

どなたでも無料で補正データを公開できる「PUSH-Out」モードをサポートしており、SNIPノードやSimple NTRIP Casterと互換性があります。

RTK2goの主なホストはrtk2go.com、ポートは2101で稼働し、数百のマウントポイント(基準局ID)を一括管理しています。

ただし、rtk2go.comは、初期コストゼロで世界中のRTK補正ストリームを公開・取得できる貴重なコミュニティサービスです。

ホビーや研究用途で手軽にRTK測位を始めたい場合に最適ですが、業務用途では安定性やSLAを提供する有料サービスとの併用を検討してください。

クライアントソフト/機器で設定

  • ホストrtk2go.com
  • ポート2101
  • マウントポイント:一覧から任意のIDを選択(例:JPN01
  • 認証情報:ユーザー名・パスワードともに空欄またはanonymous

GGA出力の有効化

  • 自局位置情報(GGA文)をNTRIPキャスターへ送信
  • サーバ側がGGAをもとに基準局を自動選択し、最適な補正を配信

善意の基準局掲示板の利用手順

  1. 掲示板サイトへアクセス
    例)https://example.com/voluntary-cors
    └ 各局の設置場所、キャスター情報(ホスト名・ポート番号・マウントポイント)が一覧化されています。
  2. 近隣の基準局を検索
    • 都道府県名や緯度・経度で絞り込み
    • 距離や高度差を確認し、最も見通しのよい局を選択
  3. NTRIPクライアント設定情報の取得
    • ホスト名(例:cors.voluntary.example.com
    • ポート番号(例:2101
    • マウントポイント(例:JP_TOKYO1
    • ユーザー名/パスワード:多くは匿名(anonymous/anonymous
  4. 受信機(M5F9P等)への設定
    • Wi-Fi/LTEでインターネットに接続
    • NTRIPクライアントの設定画面で、上記ホスト・ポート・マウントポイント・認証情報を入力
    • GGA(自局の仮位置)をキャスターに送信するため、NTRIPクライアントに「GGA出力」を有効化
  5. 接続&測位開始
    • 接続ステータスが「Connected」になればRTK補正データを受信開始
    • 「FIX」または「FLOAT」ステータスを確認して測位精度をチェック

主な有料サービス

サービス名提供元月額費用主な特徴
ichimill(センチメートル級測位サービス)ソフトバンク/ALES約3,000円台全国カバー、低遅延、高い稼働率
IoT高精度GNSS位置情報サービスNTTドコモ約3,000円IoT用途に最適化、SIM一体型オプションあり
リアルタイムサービス(Ntrip方式)日本GPSデータサービス(株)21,000円測量・建設業界向けの高信頼ネットワーク
ネットワーク型GNSSサービス(株)ジェノバ24,000円法人向け包括プラン、サポート充実
リアルタイムデータ配信日本テラサット(株)21,000円衛星データから補正情報まで一括提供

無料サービスはコストゼロでRTK測位を始められる一方、運用の安定性にバラつきがあります。

業務用途で高い信頼性を求める場合は、有料サービスの利用を検討しましょう。

M5F9P受信機との対応状況も踏まえ、自身の用途・予算・信頼性要件に応じて最適なサービスを選択してください。

朝比奈幸太郎

音楽家:朝比奈幸太郎

神戸生まれ。2025 年、40 年近く住んだ神戸を離れ北海道・十勝へ移住。
録音エンジニア五島昭彦氏より金田式バランス電流伝送 DC 録音技術を承継し、 ヴィンテージ機材で高品位録音を実践。
ヒーリング音響ブランド「Curanz Sounds」でソルフェジオ周波数音源を配信。
“音の文化を未来へ”届ける活動を展開中。