Contents
- 第1章:コンデンサとは何か?(2つの役割をイメージ)
- 役割1:電気を蓄える「バケツ」
- 役割2:直流を通さず、交流(音)だけを通す「フィルター」
- 第2章:オーディオにおける具体的な使われ方
- 1. カップリング・コンデンサ(信号の受け渡し)
- 2. ローカット / ハイカット(EQ回路)
- 第3章:これだけは覚えたい!コンデンサの「3大種類」
- 1. 電解コンデンサ(Electrolytic Capacitor)
- 2. フィルムコンデンサ(Film Capacitor)
- 3. セラミックコンデンサ(Ceramic Capacitor)
- 第4章:数字が読めれば怖くない!容量と耐圧のルール
- 1. 容量の単位:F(ファラド)の世界
- 2. 耐圧(Voltage):これを守らないと爆発する
- 第5章:なぜ「リキャップ(交換)」で音が蘇るのか?
- まとめ:コンデンサは「音の色」を決める画材
マイクプリアンプのカタログで「カップリング・コンデンサに高級パーツを採用」という売り文句を見たり、ヴィンテージ機材のメンテナンスで「電解コンデンサが寿命ですね」と言われたことはありませんか?
電子回路において、抵抗(レジスタ)が「交通整理役」だとすれば、コンデンサ(キャパシタ)は「ダム」であり「フィルター」です。
特にオーディオにおいて、コンデンサは音の信号そのものが通るゲートとして機能するため、その品質や種類がサウンドキャラクターをダイレクトに左右します。
今回は、物理が苦手な人でも直感的にわかるように、コンデンサの仕組みと、録音エンジニアが知っておくべき種類の違いを徹底解説します。
第1章:コンデンサとは何か?(2つの役割をイメージ)
コンデンサ(Capacitor)の構造は単純で、「2枚の金属板が、触れ合わないように向かい合っている」だけです。
この単純な構造が、電気(=音)に対して2つの重要なアクションを起こします。
役割1:電気を蓄える「バケツ」
コンデンサは、電気を一時的に貯めたり、放出したりすることができます。
- 電源回路において:
コンセントから入ってきた不安定な電気を一度コンデンサという「大きなバケツ」に貯めることで、水面(電圧)を一定にし、ノイズのない綺麗な電気を機材に供給します(平滑回路)。
役割2:直流を通さず、交流(音)だけを通す「フィルター」
エンジニアにとって最も重要なのがこの性質です。
- 直流(DC):通さない
一方通行の電気(電池やファンタム電源48Vなど)は、金属板が繋がっていないため、そこでストップします。 - 交流(AC):通す
振動する電気(=マイクが拾った音声信号)は、金属板の向こう側へ振動として伝わります。
イメージしてください:水道管の途中に「ゴム膜」が張ってある状態です。水をずっと流そうとしても(直流)、ゴム膜で止まります。
しかし、水を振動させれば(交流=音)、ゴム膜も震えて、向こう側の水に振動が伝わります。
これが「電気は通さないが、音は通す」というコンデンサの正体です。
第2章:オーディオにおける具体的な使われ方
では、実際の機材の中でコンデンサはどう働いているのでしょうか?
1. カップリング・コンデンサ(信号の受け渡し)
マイクプリやコンプレッサーの回路のつなぎ目には、必ずと言っていいほどコンデンサが入っています。
- 役割: 前の回路の「電圧(DC)」をカットし、「音声信号(AC)」だけを次の回路へ渡す。
- 重要性: ここを通る時、コンデンサの質によって「音が太くなる」「高域がキラキラする」「音が曇る」といった変化が起きます。まさに音の関所です。
2. ローカット / ハイカット(EQ回路)
コンデンサには「周波数が高いほど通りやすく、低いほど通りにくい」という性質があります。
これを抵抗と組み合わせることで、「低音だけをカットする(ハイパスフィルタ)」などのEQが作られています。
第3章:これだけは覚えたい!コンデンサの「3大種類」
「コンデンサ」と一口に言っても、材質によって音も用途も全く違います。
エンジニアが覚えるべきは以下の3つです。
1. 電解コンデンサ(Electrolytic Capacitor)
- 見た目: 円筒形(缶ジュースのような形)。黒や青のビニールで覆われていることが多い。
- 特徴:
- 大容量: たくさんの電気を貯められる。
- 極性あり: プラスとマイナスの向きがある(間違えると爆発する)。
- 寿命がある: 内部に電解液という液体が入っているため、時間とともに乾いて(ドライアップして)機能しなくなります。
- 音の傾向: 中低域に厚みが出るが、高域の伸びはやや苦手。
- 主な用途: 電源部分、アナログ機材のカップリング(太さを出すため)。
2. フィルムコンデンサ(Film Capacitor)
- 見た目: 四角い箱型や、飴のような形状。赤(WIMA製)や黄色、青など。
- 特徴:
- 高精度: 劣化しにくく、特性が非常に良い。
- 極性なし: 向きを気にせず使える。
- 音の傾向: 歪みが少なく、クリアでハイファイ。 高域まで綺麗に伸びる。
- 主な用途: オーディオ信号の通り道、EQ回路。高級機材ほどこれが多用されます。
3. セラミックコンデンサ(Ceramic Capacitor)
- 見た目: 小さな円盤型(茶色や青)。米粒のようなチップ型。
- 特徴:
- 超小型・安価: デジタル回路などで大量に使われる。
- 高周波に強い: ラジオ波などのノイズを除去するのが得意。
- 音の傾向: オーディオ信号ラインに使うと、音がザラついたり歪んだりすることがある(※高級オーディオ用を除く)。
- 主な用途: デジタルノイズの除去、発振防止。
第4章:数字が読めれば怖くない!容量と耐圧のルール
コンデンサを選ぶとき、本体に書かれている「暗号のような数字」を解読する必要があります。
見るべきポイントはたったの2つ。
「容量(バケツの大きさ)」と「耐圧(バケツの強度)」です。
1. 容量の単位:F(ファラド)の世界
コンデンサの容量の単位はF(ファラド)ですが、1Fは巨大すぎるため、オーディオ機器では以下の3つの「ミリミリ単位」を使います。
μFμF(マイクロ・ファラド)- 一番よく見る単位。 電源や太い音を通す場所に使われます。
- 電解コンデンサはこれ。1000μF や 47μF などと書かれています。
- ※古い機材では「MFD」や「mF」と書かれていることもありますが、同じマイクロファラドです。
nFnF(ナノ・ファラド)- 中くらいの単位。 フィルムコンデンサでよく使われます。
- EQ回路やトーンコントロールに登場します。
pFpF(ピコ・ファラド)- 一番小さい単位。 セラミックコンデンサなど。
- 耳に聞こえないような高周波ノイズを取るために使われます。
【保存版】エンジニアのための換算早見表
コンデンサには「104」などの3桁の数字しか書かれていないことがよくあります。
これを読むための翻訳ルールです。
| 表記 (3桁コード) | 読み方 (計算) | 容量 (pF) | 容量 (μFμF) | よくある用途 |
| 104 | 10 + 0が4つ | 100,000pF | 0.1μFμF | ノイズ除去のド定番 |
| 103 | 10 + 0が3つ | 10,000pF | 0.01μFμF | 高域カット |
| 473 | 47 + 0が3つ | 47,000pF | 0.047μFμF | ギターのトーン回路 |
| 221 | 22 + 0が1つ | 220pF | 0.00022μFμF | 高周波発振防止 |
覚え方: 最後の数字は「ゼロの数」です。104 なら、10 の後ろに 0000 をつけるだけ。
2. 耐圧(Voltage):これを守らないと爆発する
容量の横に必ず 16V 50V 63V といった電圧が書いてあります。
これは「そこまでなら電圧をかけてもパンクしませんよ」という限界値です。
【鉄の掟】交換時のパーツ選定ルール
修理や改造でパーツを選ぶときは、以下のルールを絶対に守ってください。
- 容量 (
μFμF) は、「同じ」にする- 基本は同じ値を選びます。
- 例外:電源のメインコンデンサなどは、少し大きくする(2200
μFμF→→3300μFμF)ことで電源が強化され、低音が安定することがあります(※自己責任チューニング)。
- 耐圧 (
VV) は、「同じ」か「大きいもの」にする- 絶対に低いものを選んではいけません。
- 元が 16V なら、16V はもちろん、25V、35V、50V を使っても全く問題ありません(むしろ安全性が高まります)。
- サイズが許す限り、耐圧には余裕を持たせるのが、長持ちする機材作りのコツです。
実例:Revoxのレストアでは、元々ついている 16V耐圧 のタンタルコンデンサを、安全のために 35V耐圧 の電解コンデンサに交換するのが定石です。
第5章:なぜ「リキャップ(交換)」で音が蘇るのか?
ヴィンテージ機材(Revox、NEVE、UREIなど)のメンテナンスで「コンデンサ交換(Recap)」が行われる理由は、主に「電解コンデンサの寿命」です。
電解コンデンサの中の液体が干からびると、以下の症状が出ます。
- 低音がスカスカになる: 容量が減り、低い周波数の音を通せなくなる(ハイパスフィルタ化してしまう)。
- ノイズが増える: 電源の汚れを取りきれなくなり、「ブー」というハムノイズが乗る。
- 音が歪む: 信号を綺麗に受け渡せなくなる。
これを新品(あるいはオーディオグレードの高級品)に交換することで、「低音が戻り、ノイズが消え、ベールを一枚剥いだようなクリアな音」に蘇るわけです。
整備されたRevoxの音が素晴らしいのはそのため!
まとめ:コンデンサは「音の色」を決める画材
- 電解コンデンサ = パワーがあり、太く暖かいが、寿命がある。
- フィルムコンデンサ = 繊細でクリア、劣化しにくい。
- セラミックコンデンサ = ノイズ取りの職人。
コンデンサとは、単なる電子部品ではなく、エンジニアにとっては**「音色をコントロールするフィルター」であり、メンテナンスにおいては「鮮度を保つべき生鮮食品」**のようなものです。
もしお手持ちのマイクやプリアンプの音が「最近元気がないな?」「低音が痩せてきたな?」と感じたら、それは中のコンデンサたちが「そろそろ交換してくれ」と叫んでいるサインかもしれません。
次に機材の中身を見る機会があれば、ぜひ「あ、これが音の関所だな」と探してみてください。それだけで、電気回路がぐっと身近に感じられるはずです。