Contents
- 目次
- 伝説のスタジオ「A&M Recording Studios」
- 魂を受け止めた伝説のマイク:AKG C12
- なぜ C12 だったのか?
- “銀色の聖杯”と呼ばれたマイクの伝説
- 1. 世界初のリモート・コントロール革命
- 2. 心臓部「CK12カプセル」の魔術
- ジャズの歴史も刻んだ銀色の聖杯
- 【必聴】AKG C12の魔法がかかった名盤3選
- 悲運の兄弟機「Ela M 251」も・・・
- 合唱を捉えたマイク:Neumann U87 / U67
- スターたちの耳元:AKG K240 Sextett / Monitor
- AKG K240が採用された理由
- 録音の心臓部:Studer A800 & Custom Console
- We Are the World 登場人物・タイムライン
- おまけ!!!!!!!!!!!!!
- なぜ、ポップガードがストッキングなの?
- C12の正統なる継承者とは?
- 現代の『We Are the World』を録るならこのマイク
- 最後に
1985年1月28日。
アメリカン・ミュージック・アワードの直後、ロサンゼルスのA&Mレコーディング・スタジオに掲げられた張り紙のことを、皆さんはご存知でしょうか。
“Check Your Ego at the Door”(エゴは入り口に預けてこい)
クインシー・ジョーンズが指揮を執り、マイケル・ジャクソン、ライオネル・リッチー、スティーヴィー・ワンダー、ボブ・ディラン……
当時の音楽シーンの頂点に立つ45人のスターたちが一堂に会した奇跡のプロジェクト、『We Are the World』。
今回は、昨年天国へと旅立った巨匠クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones、1933年3月14日 – 2024年11月3日)を偲びつつ、プロのエンジニアである私の視点から、「あの伝説の夜、彼らは具体的に何を使って音を残したのか?」というマニアック、かつロマンあふれる機材の話をしたいと思います。
あのミュージックビデオ(MV)に映り込むマイクやヘッドホン。
それらは単なる道具ではなく、歴史を刻んだ証人です。
この映像は、音楽史における重要資料であると同時に、エンジニア視点で見ると「1985年当時の最高峰のスタジオワーク」が克明に記録された教科書のような映像です。
機材の解説に加えて現代での代替品マイクの紹介や、このマイクの使い方や特徴、また業界のちょっとこぼれ話までマガジン購入してくださった方の限定コラムとしてお送りします。
(単体での購入はマガジンの価格を超える設定にしているため、実質マガジン購入者限定特典となります。
この記事は単体購入ではなく必ずマガジンでの購入が必須となります)
目次
- 伝説のスタジオ「A&M Recording Studios」
- 魂を受け止めた伝説のマイク:AKG C12
- なぜ C12 だったのか?
- “銀色の聖杯”と呼ばれたマイクの伝説
- 1. 世界初のリモート・コントロール革命
- 2. 心臓部「CK12カプセル」の魔術
- ジャズの歴史も刻んだ銀色の聖杯
- 【必聴】AKG C12の魔法がかかった名盤3選
- 悲運の兄弟機「Ela M 251」も・・・
- 合唱を捉えたマイク:Neumann U87 / U67
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伝説のスタジオ「A&M Recording Studios」
まず、場所の話から始めましょう。
舞台となったのは、ハリウッドのA&M Recording Studiosの「Studio A」です。
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この記事は単体購入ではなく必ずマガジンでの購入を強く推奨します。
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ここは当時、世界最高のスタジオの一つと言われていました。
広いライブ・ルーム(演奏スペース)を持ち、オーケストラ録音も可能なほどの天井高を誇ります。スーパースター45人が「Uの字」型に並んで合唱できるキャパシティを持っていたのは、ここしかなかったと言っても過言ではありません。
チーフ・エンジニアは、名匠ウンベルト・ガティカ(Humberto Gatica)。
彼が直面したプレッシャーは想像を絶します。これだけのスターを集めて、機材トラブルは絶対に許されない。その緊張感の中で選ばれた機材たちを見ていきましょう。
魂を受け止めた伝説のマイク:AKG C12
MVの中で、スティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソン、そしてブルース・スプリングスティーンたちが代わる代わる歌い継ぐ、あのソロ・パート。
彼らの目の前にセットされていた細長いシルバーのマイク。
あれこそが、伝説の名機 AKG C12 です。
なぜ C12 だったのか?
C12は、1950年代にオーストリアのAKG社が開発した真空管コンデンサーマイクです。
現在、ヴィンテージ市場では数百万円で取引されることもある「聖杯」のようなマイクです。
このマイクの特徴は、その「シルキーで煌びやかな高域」と「圧倒的な抜けの良さ」にあります。
マイケルの繊細なブレス、シンディ・ローパーの突き抜けるようなハイトーン、ボブ・ディランの土着的なしゃがれ声。
声質の全く異なるシンガーたちが次々と入れ替わる状況で、EQ(イコライザー)をいじくり回さなくても、誰の声も埋もれさせず、かつ美しく録音できるマイク。
その信頼性において、C12は最適解だったのでしょう。
映像をよく見ると、ポップガード(吹かれ防止の網)が現代のような既製品ではなく、針金ハンガーにストッキングを被せたような手作り感満載のものであることも、当時のスタジオのリアルを感じさせて愛おしいポイントです。
“銀色の聖杯”と呼ばれたマイクの伝説
『We Are the World』の映像で、数々のスーパースターたちの前に屹立していた細長いシルバーの筐体。