ストリーミング黄金時代の光と影
音楽ストリーミングは今や音楽消費の主流となり、Spotifyはその先頭に立つ存在です。
誰もがスマホひとつで世界中の音楽にアクセスできる便利さは、確かにリスナーにとって魅力的ですよね。
実際音楽家を目指すみなさん、そして音楽家の方も便利に使っている面もあるのではないでしょうか。
しかしその一方で、「ストリーミング革命」の陰には多くの問題が潜んでいるのもまた事実。
「Spotifyはアーティストを搾取している」という批判的な見解は決して珍しくありませんし、今にはじまったことではないのです。
実際、Spotifyの1再生あたりの支払い額は平均してわずか$0.003~$0.005(約0.4~0.7円)程度とも報じられ、独立系や新人の音楽家にとっては「侮辱的で持続不可能」な水準だと指摘されています。
ストリーミングの普及によって音楽業界全体の収益は1990年代のピーク水準に匹敵するまで回復したにもかかわらず、その利益のほんの一部しかアーティスト本人には届いていないという現実も明らかになっています。
便利さと引き換えに犠牲になっているものは何か―
本記事では、Spotifyを中心とした音楽ストリーミングサービスをめぐる世界的な議論や問題点を批評的に捉え、そしてアーティストが模索するべき新たな収益モデルとコミュニティの可能性、また未来の音楽配信、音楽ビジネスの在り方について考察します。
また、世界中で起こっているムーブメントに対する音楽家:朝比奈幸太郎としての意見を交えつつ、資本主義と芸術家の共存論を語ります。
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Spotifyモデルへの批判?!

ストリーミングサービス、とりわけSpotifyへの最大の批判は、その収益分配モデルの不公平さにあります。
Spotifyでは毎月の総収入の大部分(約70%)が権利者への原盤権料として支払われますが、その分配は「プロラタ方式」と呼ばれ、全ユーザーの総再生数に基づいて各曲へ按分されます。
この方式では再生数の多い一部の「トップ1%の人気アーティストが全ストリームの78~80%を占める」状況を助長し、大多数のインディーズには雀の涙ほどの報酬しか行き渡りません。
英国の調査によれば、ストリーミングだけで生計を立てられるアーティストはわずか0.4%(英国で約1,723人)に過ぎず、その多くがメジャーレーベル所属の一握りの成功者であると言われています。
Spotifyのグラント・コードCEO(Daniel Ek)は「2023年に音楽業界へ90億ドル以上を還元した」と弁明しましたが、肝心の分配方法がこのままでは、独立系アーティストにとってストリーミングは「喉元に差し突き付けられた乞食ボウル」(物乞いの椀)に等しいとの怒りの声もあります。
戦争に加担するアーティスト

さらに深刻なのは、Spotifyのビジネス上の動きに関する倫理的な問題です。
2023年にはSpotify創業者のエク氏が総額1億ユーロ(約143億円)を投じてAI兵器開発企業ヘルシング社に出資し、取締役会長に就任していた事実が明るみに出ました。
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ヘルシング社は戦場データをAIで解析して無人攻撃ドローン(HX-2型「カミカゼ・ドローン」など)を開発するドイツの軍需スタートアップで、2025年には追加で6億ユーロ規模の資金調達を実施しエク氏は持ち株を倍増させています。
Spotifyの利益がこのような殺傷テクノロジーの資金源に転用されている可能性に、多くの音楽ファンやアーティストが激しく反発しました。
「ファンの支払ったお金とミュージシャンの努力が、最終的に致死的でディストピアな技術を資金援助している」というMassive Attackの声明は、その道義的問題を端的に突いています。
とりわけ戦火が広がる世界情勢の中で、音楽と戦争ビジネスの結びつきに対する嫌悪感は強まっており、「Spotifyを使うことは戦争を支援することだ」という過激な批判すらドイツのTikTok上で語られるほどでした。
技術的な不公平
技術面でもSpotifyへの懸念が浮上しています。
アルゴリズムによるレコメンド機能やキュレーションはユーザーの体験をパーソナライズする便利な機能ですが、その裏側ではフィルターバブル(閉鎖的な嗜好のループ)の問題が指摘されています。
Spotifyのレコメンドはユーザーの再生履歴やスキップ動作を学習し「あなたに合う曲」を提案してくれます。
しかしその高度すぎるパーソナライゼーションゆえに、ユーザーは自分でも気づかぬうちに狭い範囲の音楽ばかりを聴かされ、未知のジャンルや新人に出会う機会を奪われているかもしれません。
実際、Spotify上ではメインストリームの人気曲ばかりがさらに露出を増やし、アルゴリズムに埋もれた小規模アーティストは一層発見されにくくなるという指摘もあります。
本来であれば世界中の多様な音楽への扉を開く可能性を秘めたプラットフォームが、逆に既存のヒット曲と多数派カルチャーの再生産装置になっているとすれば、これは見過ごせない逆説とも言えます。
AI生成音楽の氾濫
さらに昨今問題化しているのが、AI生成音楽の氾濫です。
これに関しては、また別の考察や議論が必要になってきますが、この記事では割愛。
AI生成音楽の氾濫は、AIによって自動作曲・自動生成された音源がストリーミングに大量にアップロードされ、人間の作り手による音楽と同列に扱われる状況が生まれています。
たとえば米スタートアップのBoomyはAIで楽曲を量産できるサービスを提供していますが、Spotify上にアップロードされたBoomy由来の楽曲が1,400万曲以上にも達したことで、2023年にはSpotifyが「不正なストリーム操作の疑い」を理由に数万曲を削除する事態となりました。
Boomy利用者はアルバム1枚に500曲も収録する極端な投稿を行い、再生回数を水増しして収入を得ようとする例もありました。
フランスのプラットフォームDeezerはAI生成コンテンツにラベルを付与しレコメンドから除外するといった透明性策を打ち出していますが、Spotifyは現時点で明確な区別表示もなく、業界標準のメタデータ整備を待つとの立場です。
芸術家の仕事とは?
これはもちろん議論の余地はあります。
テクノロジーとの共存、そして(いき過ぎた)資本主義とのバランスをアーティストはとらなければいけません。
しかし、同時に文化を守らなければいけない、そして、創造をやめない、さらに、非合理的かつ無駄なことを追求するというのも芸術家のとっても大切な仕事でもあるのです。
また、AI音楽の洪水は単に著作権侵害の懸念だけでなく、人間のクリエイティビティの価値を棄損し音楽文化を画一化させるリスクを孕んでいます。
これはもちろん写真や映像の世界にも言えることであります。
20世紀後半の大量生産大量消費の波がデジタルワールドで起こっていると言えるわけですが、こういったAIの大量生産に関しては、アーティストのみなさんはそこまで騒ぐ必要はないと思っています。
それは、「いずれ飽きる」ということ。
実際TikTokやインスタで流れてくるSORA2の動画、最初は驚いて何度もみていましたが、リリースから1ヶ月もしないあたりから飽きてきた方、多いんじゃないでしょうか?「なんだAIか」・・・という感覚で。
写真や音楽、映像も然り、実はもう飽きているんじゃないですか?
人間の感情に触れる作品をどうしても求めてしまうというのが人間という生き物です。
アーティストたちの抗議とボイコット
さて、話を戻しましょう。
こうした状況に対し、ここ数年で世界中のミュージシャンや業界関係者から抗議の声が相次いでいます。
その象徴的な動きの一つがSpotifyボイコットです。
2021年3月15日には、アメリカの音楽家労働組合UMAW(Union of Musicians and Allied Workers)が主導し、「Justice at Spotify(Spotifyに正義を)」キャンペーンの一環として世界31都市のSpotifyオフィス前で同時抗議デモが行われました。
スペイン・マドリードでも音楽家組合が参加し「1ストリームあたり1セントの支払い」「契約の透明化」「ユーザー中心の支払いモデルへの移行」など5項目を要求する公開書簡がSpotifyに手渡されています。
当時集まったアーティストたちは「SpotifyやYouTubeのように我々のコンテンツで儲ける企業は我々抜きでは成り立たないのだから、公正な対価を支払うべきだ」と訴えました。
しかし、彼らの声は大手メディアには大きく取り上げられず、多くのミュージシャンが団結しきれていない現状にも課題が残ると報告されています。
それでも、この国際共同アクションは「ストリーミング経済の再検討」を広く促すきっかけとなりました。
2022年以降、Spotifyへの不満はさらに高まり、具体的なボイコット(サービスからの楽曲撤退)の動きが目立ち始めます。
特に2025年には、先述のエクCEOの軍事投資問題や世界的な政治状況も相まって、著名アーティストによるSpotify離脱宣言が相次ぎました。
イギリスのトリップホップ・バンドMassive Attackは「長年アーティストに経済的負担を強いてきたSpotifyモデルが、今や倫理的負担まで生み出した」と批判し、自身の楽曲カタログを全世界でSpotifyから削除するようレーベルに要求したと表明しました。
彼らはガザ侵攻に抗議する文化ボイコット「No Music for Genocide」に連帯しつつ、Spotifyに対してはそれとは別個に「もう十分だ。別のやり方は可能だ」と強く訴えています。
Massive Attackの呼びかけに対しSpotify側は「Spotifyとヘルシング社は完全に無関係な別企業だ」との声明で火消しを図りましたが、アーティストたちの憤りは収まりません。
実際、Deerhoof、Godspeed You! Black Emperor、Xiu Xiu、Young Widows、King Gizzard & the Lizard Wizard、WU LYFといったインディー/オルタナ系の実力派バンドが次々とSpotifyからの楽曲撤退を表明していますし、オーストラリアのベテラン音楽家David Bridieも「自分の曲の多くは紛争被害者と作ったもの。そんな曲で兵器に投資する人々を豊かにしたくない」と述べ、作品を引き上げています。
彼は「ストリーミングの手軽さは認めるが、問題はそれが唯一の接点になってしまうときだ。ダウンロードや物販が激減した中で、このひどいロイヤリティ率ではやっていけない**」と怒りをあらわにしました。
ボイコットの効果は?!
とはいえ、実際にこのようなボイコットには難しい現実もあります。
Spotifyは現在全世界で5億人近いユーザーを抱える圧倒的プラットフォームであり、特に欧米のみならず新興市場でも広く定着しています。
たとえばドイツでは音楽ストリーミング利用者の41%がSpotifyを使っており(次点のYouTube Music 31%、Amazon Music 29%を引き離す)、もはや「音楽を聴く=Spotify」の代名詞となっているとの調査もあります。
インドやブラジルなどでは月額料金が低く設定されユーザーを急拡大させていますが、その分1再生あたりの取り分はさらに僅少になる構造です。
つまりユーザー、視聴者にとっては、非常に便利なサービスであり、低価格で世界中の好きなアーティストの音楽が聴き放題であるという状況です。
つまり、抗議のためとはいえSpotifyから楽曲を消すことは、アーティスト自身がリスナーとの大きな接点を断つことにも繋がりかねず、実行には大きな覚悟が必要です。
資本主義と音楽産業
ストリーミング論争の根底には、音楽産業を取り巻く資本主義的な構造問題があります。
音楽は本来アートであり文化ですが、市場原理の下では「商品」として扱われ、収益性が最優先されがちです。
これは何もSpotify時代に始まったことではなく、古くはレコード会社による収奪やラジオ時代のペイオラ(賄賂による曲の放送工作)など、音楽産業には搾取の歴史がつきまとってきました。
デジタル時代に入り、一時は「誰もがネットで音源を直接配信できるからインディーにもチャンスが広がる」と期待されました。
しかし実際には、Web2.0の音楽市場はユートピアには程遠い現実を露呈しています。
SpotifyやApple Musicなどストリーミングがレコード売上を凌駕する主要収入源となった今、これらプラットフォームと提携するメジャーレーベルだけが莫大な利益を得ている構図が浮かび上がっています。
例えば、音楽ライツの収益配分では、Spotifyをはじめ主要プラットフォームが秘密裏に大手レーベルと契約を結び、有利な待遇(プレイリスト掲載やアルゴリズムでの優遇)と引き換えに低い印税率を受け入れさせているとの批判もあります。
実際Spotifyは2020年、「Discovery Mode」という新制度でアーティスト側がロイヤリティ料率を下げればアルゴリズム上で露出を増やすと公表し物議を醸しました。
これは21世紀版ペイオラとも言える仕組みで、金銭的余裕のないインディーほど泣き寝入りで低率を受け入れざるを得ず、格差が自己増殖する危険があります。
代替手段”分散型コミュニティ”
Bandcamp
Spotify中心の現行モデルに疑問を呈するアーティストたちは、同時に**「別のやり方」も模索し始めています。
その筆頭がBandcampやPatreonなど、アーティストとファンを直接つなぐプラットフォームの活用です。
Bandcampは2008年創業の音楽配信プラットフォームで、ストリーミングではなくダウンロード販売やフィジカル販売、グッズ販売に特化したユニークなサービスです。
Bandcampで作品が売れると平均で売上の82%がアーティストやレーベルの取り分となり(残りがBandcamp手数料と決済手数料)、売上の支払いも迅速。
この公平な収益配分により、Bandcampは2020年時点ですでに総額5億ドル(約520億円)以上をアーティストに還元したと報告されていました。
さらにその後も成長を続け、2023年末には累計支払額は12億ドルを超え、2024年には16億ドル(約2,400億円)に達したとも伝えられています。
コロナ禍においてライブ収入を失ったミュージシャンを支えるべく、Bandcampは2020年から毎月第一金曜日に手数料を全額免除する「Bandcamp Friday」を開始し、大きな話題となりました。
これにより2020年5月までの2日間だけで1,140万ドルがアーティストに直接届けられたというデータもあります。
Bandcampは営利企業ではありますが、その企業文化はしばしば「反Spotify」とも評されています。
一方で2022年にゲーム企業のEpic GamesがBandcampを買収し、2023年には再び別企業へ売却されるなど、その先行きに不安を感じる声もあります。とはいえ、少なくとも現時点でBandcampは「音楽で生計を立てたい独立アーティストにとって希望の光」であり続けているのは間違いありません。
Patreon
Patreonもまた重要な代替収益モデルとして有名です。
Patreonは2013年に始まったファン支援型のサブスクリプション・プラットフォームで、ファンが好きなクリエイターに月額課金することで継続的支援を行う仕組みです。
音楽分野でも多くのアーティストがPatreonを活用しており、新作の先行公開や未発表デモの共有、オンラインイベントへの招待、グッズ提供など様々な特典を用意してファンコミュニティを育てています。
Patreonはサービス開始以来で累計20億ドル以上をクリエイターへ支払ったとされており、インタビューを受けた多くの音楽家が「数あるプラットフォームの中でPatreonが最も収入源として有効だった」と答えています。
特にコロナ禍以降は、ライブができない中で熱心な支援者から直接収入を得られるPatreonの意義が増しました。
Patreon的な仕組みはある意味で中世や近世の「パトロン(後援者)制度」の現代版とも言え、広く不特定多数から少額ずつではなく「100人の真のファン」から直接的に支えてもらうことで、創作の自由度やコミュニティの結束感が増すというメリットも報告されています。
もっとも、Patreonにも課題はあります。
ファンと近い関係になることで「迎合しすぎて創造性が縛られる」と感じるアーティストもおり、またPatreonにコンテンツを一度アップするとコピーされてすぐに支援を解除されてしまうリスクや、結局プラットフォームに依存する弱みもあると指摘されています。
それでも「何も得られないよりはマシだ」としてPatreonを始めるミュージシャンは多く、定期支援者を100人、200人と抱えることで、例え月収が数十万円規模でも音楽活動を続けられる基盤を得ているケースも増えています。
Resonate
また、イギリスではResonateという音楽ストリーミングの協同組合が生まれ、ブロックチェーン技術を用いて再生毎に使用料を支払う「ストリーム2オウン(一定回数聴いたらその曲の購入が完了する)」モデルを試行しています。
またアーティスト自らNFTを発行してファンに所有してもらうことで収入を得る実験も各国で続いています。
これらはまだ主流からは程遠い試みですが、音楽の収益化を中央集権的な巨大企業に任せず、コミュニティとテクノロジーを駆使して自給自足的にやっていこうという気概が感じられます。
重要なのは、BandcampにせよPatreonにせよ、これらはSpotifyのように「億単位の受動的リスナー」に薄く課金するモデルではなく、「千人規模の熱心な支援者」に直接支払ってもらうモデルだという点です。
つまりスケールメリットよりもディープな関係性を重視したアプローチです。
ストリーミングで100万回再生されても手取りは数万円にしかなりませんが、100人のファンが毎月1,000円支援してくれれば同じ数万円が安定して得られます。
どちらがアーティストにとって有意義かは、一概には言えません。
知名度を上げ広く浅く聴かれることで得られるチャンスもあるでしょう。
しかし、収入という現実面だけを見れば、「音楽で食べていく」ためには少数のコアなファンとの強い繋がりを築く方が近道だというのは、多くの独立系アーティストが体感しているところではないでしょうか。
テクノロジーとの向き合い方:これからの芸術家

我々リスナーやアーティストはこの流れにどう向き合うべきなのでしょうか?
個人的には、プラットフォームに対する文句は出したくありません。
文句があるなら出ていく・・・くらいのガッツがないと元々芸術家なんてやっていないでしょう。
そして、資本主義はAIの登場によって、本質的に見直さなければいけない状況になってきました。
昨今ベーシックインカムが議論されたり、テストされたりしていることがその表れでしょう。
ただし、筆者は資本主義を否定する立場にはありません。
資本主義は人間、あるいはAIによるアルゴリズム化される前は、人類の発展と科学の進歩にとって重要な要素であったことは間違い無いでしょう。
これから、仮にベーシックインカムが世界中に広まることになったとしても、資本主義の精神はどこかに残しておく必要があります。
もちろん無駄を定義する芸術家がこんなこといってはいけないことは重々承知しています。
今後うまく資本主義と付き合っていくことの一つの答えは「意識的になること」かもしれません。
人間あるいはAIが作成したアルゴリズム任せではなく、自ら新しい何かを探しに行くこと。
重要なのは、音楽との関わり方を受動的な消費から主体的な体験へと取り戻すことではないでしょうか。
スポティファイに限ったことではありません。
みなさんは普段、コンテンツを自分で選んでいないはずです、そして、2024年以降、自分でコンテンツを選んでいない、つまり、「選ばされている」という感覚を肌で感じているはずです。
自らの手でアルゴリズムの呪縛から解放されること、もはや脱獄すること・・・といっても大きな齟齬はないのかもしれませんね。
自社プラットフォーム
さて、この記事では具体的な未来の音楽配信の在り方も積極的に発信していこうと思うわけであります。
分散コミュニティーに加えて、自分でプラットフォームを作るという視点も面白いのでは無いかと思います。
自社プラットフォームを持つという選択肢
Spotifyなど大手ストリーミングサービスが抱える構造的課題が明らかになった今、「自社プラットフォームを持つ」という選択は、もはや理想論ではなく現実的な戦略になりつつある。
その目的は単なる「独立」ではなく、音楽家が自らの価値を正当に伝え、維持するためのエコシステム構築にある。
■ 音楽家がプラットフォームを持つ意味
自社プラットフォームの根本的な価値は、データと顧客関係の主権を取り戻すことにあります。
SpotifyやApple Music上では、ファンとの接点は常にプラットフォームによって仲介され、アーティスト自身が「誰が自分の音楽を聴いているのか」を直接知ることは難しいわけです。
自社サイトを基盤に据えることで、メールアドレス、購入履歴、視聴傾向など、ファンとの関係性データを自らの資産として保持できる。
それは「ストリーミングからコミュニティへ」という、次世代のアーティスト経済の出発点となる。
■ 技術的インフラと現実的ハードル
現代では、ノーコード開発ツールやWeb3的技術(NFTやトークン化支援など)により、WordPressやGhost、Next.jsなどを用いたアーティスト専用プラットフォーム構築は容易になっています。
StripeやPayPal、OpenCollectiveなどの決済APIとの連携で、月額支援型・限定リリース型・投げ銭型といった複数の収益モデルも選択可能です。
ただし、最大の課題は集客と維持コストにあります。
Spotifyのような巨大プラットフォームは「発見可能性」を提供するが、自社プラットフォームはその代わりにファンとの濃度を高めていきます。
そんな技術がない!という方も安心です。
AI音楽生成についても後述しますが、こういう部分こそAIに頼ればいいわけです。
■ コミュニティ型エコノミーの芽生え
PatreonやBandcampの台頭が示すように、音楽の消費は「数億回再生」から「数百人の熱狂的支援者」へと徐々に移行しています。
小さな経済圏の中で、深い共感が支え合う。
自社プラットフォームは、その中心として機能できる可能性があります。
■ 結論:音楽家が“自分の場”を持つという革命
Spotifyを批判するだけでは、音楽経済の根は変わりません。
本当の変化は、「消費される音楽」から「芸術としての音楽」へと変えることにあります。
自社プラットフォームは、アーティストが再び「自分の声を持つ場所」を取り戻すための最前線となります。
芸術の長い歴史の中で芸術家は資本主義と芸術という無駄の概念における社会の役割と常に闘ってきました。
実はAIテクノロジーやアルゴリズムなどによって、音楽家がオワコンになるということではなく、AI革命のおかげでこの長い戦いに終止符を打つということができるようになります。
AI音楽、テクノロジーとの付き合い方
AI音楽についても同様。
もしかすると、皆さんの先輩、師匠世代からは、AIによる生成音楽を全否定された!という方や、かなり否定的である、という方、人間の方がいいに決まってるという決めつけをしてしまう芸術家の風上にも置けない輩の言葉に影響を受けている方もいるかもしれません。
そういう人たちは得てしてAIを使ってみたこともなければ、否定するほどの根拠もなく、ただ自分の立場や地位を脅かされないようにするために必死になっているだけのケースが多いわけです。
便利な作曲支援ツールとしてや、音楽理論の学習、楽曲の骨組み、リズムパターンなどに関してAIを活用すること自体は何も悪いことではありません。
問題は、その成果物をどう位置づけ、リスナーにどう提案するかです。
著名アーティストの声真似AIや、他人の曲風を模倣したAI楽曲が無秩序に出回る状況は、リスナーにとっても混乱を招きます。
例えば2023年には、ドレイクとウィークエンドの声を模倣したAI楽曲が本人無許可で公開され、レーベルが削除要請する騒ぎも起きました。
これはリスナーにとっても、「本物だと思って聴いていたらAI偽造だった」という幻滅に繋がりかねません。
そこで一部の専門家は、AI生成であることの明示や、人間とAIのコラボである場合のクレジット表示など、新たなルール作りを提案しています。
また、リスナー教育の観点からも「AI音楽だから嫌悪する」のではなく、どう向き合うかを議論、そして考察する必要があるでしょう。
ここも一人の音楽家として論じるとすれば、音楽の作曲、制作に関しては、すでに何百年もアルゴリズム化されてきたのが事実と言っていいでしょう。
モーツァルトはチームで作編曲を行い、複数の異なるフォーマットで楽曲を無限生成といっていい方法で作曲してきました。
これはまさに画期的な方法であり、モーツァルトが天才であった、そして父レオポルトが天才的なマーケターであった証拠です。
元々音楽はフォームとアルゴリズムで作られたものであり、その境目で、インプロビゼーション哲学や、アルゴリズムからの脱却として現代音楽、フリー音楽という概念に発展していきました。
多くのフリー音楽も実はフォームとアルゴリズムに囚われていることはいうまでもありません。
そういう視点でみるとき、未来の音楽というのは、インプロビゼーション哲学に関連したなんらかの哲学的領域に進化するのかもしれません。
つまり、思考が最初か?あるいは結果から思考を産むのか?という議論です。
これはインプロビゼーションに触れたことがある音楽家であれば誰もが持つ永遠のテーマでしょう。
AIは果たしてこの永遠のテーマに答えを出せるのか?
仮に答えを出せたとすれば、この世界のマトリックスの一面は一部剥がされてしまうことでしょう。
おわりに:音楽の未来を取り戻すために
音楽の歴史を振り返れば、新技術の登場は常に賛否を呼んでいます。
シンセサイザーやドラムマシンが出た時代も、伝統派からは否定されましたが、新たなジャンルの礎にもなりました。
AIや配信プラットフォーム、プラットフォームのアルゴリズムも、それ自体を排除するのではなく、人間の創造性との境界線をどこに引くかを模索する段階にあるのだと言えます。
「音楽をめぐる資本主義構造の見直し」というと大げさに聞こえるかもしれません。
しかし、ここまで見てきたSpotify中心の現状やそれに抗う動きは、筆者個人の意見は関係なく、まさに音楽業界の根本的な在り方を問うムーブメントそのものです。
音楽は単なるビジネスではなく、人々の心を動かし社会に影響を与える文化そのもの。
そして、何よりも社会に無駄を提供するとても重要な役割を担っていると思います。
その音楽を生み出す人々が正当に報われず、巨大企業の論理だけが幅を利かせる世界に未来はあるでしょうか?
Massive Attackの提案する「もう十分だ。別のやり方は可能だ」という言葉は、多くのクリエイターの胸に響きました。
Deerhoofは「発見されやすさ(Discoverability)と引き換えに、オリガルヒ(超富裕層)が世界に戦争兵器をばら撒く片棒を担がされるくらいなら、そんな恩恵は願い下げだ」と痛烈に皮肉りました。
このような強いメッセージは決して一部の過激派のものではなく、音楽を愛し誇りを持って活動する人々の真っ当な怒りと受け止めるべきでしょう。
伝えたいこと
最後に、読者であるインディーズアーティストや音楽業界志望の方々に伝えたいのは、自分たちの価値を過小評価しないでほしいということです。
音楽はデジタル時代においても人々に力を与え、社会を変える可能性を秘めています。
Spotifyの再生回数が伸び悩んでも、それであなたの音楽の価値が損なわれるわけではありません。
むしろ、小さくても熱心なコミュニティを築き、その中で価値が循環する仕組みを作ることができれば、資本主義の荒波の中でも音楽は豊かに息づいていけるはずです。
先人たちの抗議や代替モデルの模索から学びつつ、テクノロジーをうまく利用し、音楽の未来を音楽家自身とファンの手に取り戻す——そんな動きがこれからますます世界で加速することを期待したいと思います。