Contents
- 第1章:なぜ「バルクイレーサー」が必要なのか?
- 1. 圧倒的なS/N比の向上(「無音」が深くなる)
- 2. 作業効率の爆速化
- 3. デッキのヘッド摩耗を防ぐ
- 第2章:名機「TEAC E-2」の歴史とスペック
- いつ頃の機材なのか?
- なぜE-2が「名機」と呼ばれるのか?
- 第3章:【保存版】失敗しないTEAC E-2の正しい使い方(儀式)
- Step 0:準備と安全確認(最重要!)
- Step 1:電源ON
- Step 2:テープを近づけ、回転させる
- Step 3:フェードアウト(ここが命!)
- Step 4:裏面も同様に
- 第4章:よくある疑問(Q&A)
- Q. 使いすぎると熱くなりませんか?
- Q. メタルテープも消せますか?
- Q. リール(金属製・プラ製)ごとかけて大丈夫?
- まとめ:Revoxの「キャンバス」を真っ白にする
私はバルクイレーサーとして「TEAC E-2 BULK TAPE ERASER」を使っています。
一見すると無骨な工業製品のようですが、これはオープンリールテープやカセットテープの磁気データを、リールごと「瞬時」に、かつ「完全」に消去するための専門機材(バルクイレーサー)です。
「デッキで録音するときに上書き消去されるから、いらないんじゃない?」
そう思ったあなたこそ、この記事を読む価値があります。
実は、デッキの消去ヘッドとバルクイレーサーでは、「消え方」の次元が全く違うのです。
今回は、最高のアナログサウンドを目指すエンジニアのために、TEAC E-2の歴史的背景から、テープを最高の状態に戻すための「正しい使い方」までを徹底解説します。
第1章:なぜ「バルクイレーサー」が必要なのか?
もちろん新品のフレッシュテープのみを使ってライブ録音する場合や、マスターとして録音する場合は問題ありません。
ただし、テープに上書きする場合は、消去する必要があります。
ご存知の様に、基本的には消去ヘッドが搭載されていて、録音の直前にテープの内容は一度消えます。
じゃあ別に消去ヘッドでいいんじゃない?と思いますよね。
実はバルクイレーサーを使うメリットは主に3つあります。
1. 圧倒的なS/N比の向上(「無音」が深くなる)
デッキに内蔵されている「消去ヘッド」は、あくまで録音直前に「トラック単位」で磁気を消すものです。
しかし、例えば過去に過大入力(ピークレベルオーバー)で録音された信号や、経年による磁気ノイズは、デッキのヘッドだけでは消しきれず、「残留ノイズ」として薄く残ってしまうことがあります。
TEAC E-2のような強力な電磁石を使えば、テープの磁性体を深層部から完全にリセット(無秩序化)できます。
これにより、ヒスノイズが減り、「サーッ」というノイズの奥にある「静寂」が蘇ります。
2. 作業効率の爆速化
10号リール(2500フィート)のテープを消去しようとすると、デッキで「空録音」する場合、早回しでも数十分かかります。
しかし、バルクイレーサーなら片面数秒、両面で1分以内に完了します。
中古テープを大量に入手した際の初期化には必須です。
3. デッキのヘッド摩耗を防ぐ
古いテープを消すためだけにデッキを回すのは、大切なRevoxのヘッドやモーターを無駄に消耗させる行為です。
消去作業をバルクイレーサーに任せることで、愛機の寿命を延ばすことができます。
第2章:名機「TEAC E-2」の歴史とスペック
いつ頃の機材なのか?
TEAC(ティアック)は、「Tokyo Electro Acoustic Company」の名が示す通り、日本の磁気記録技術を世界に知らしめたメーカーです。
このE-2(およびハンドヘルド型のE-3)は、オープンリール全盛期の1970年代〜80年代にかけて製造・販売されたロングセラーモデルです。
なぜE-2が「名機」と呼ばれるのか?
- 圧倒的なパワー: 100V〜120Vの電源を使い、巨大なコイルで強力な交流磁界を発生させます。民生用としてはオーバースペックなほどの磁束密度を持っています。
- 堅牢性: 「Product of Japan」の刻印が示す通り、頑丈な金属筐体で作られており、40年経った今でも現役で稼働する個体が数多く存在します。
- 対応力: カセットテープから7号、10号(アダプタ使用や手持ち工夫により)のオープンリールまで幅広く対応します。
第3章:【保存版】失敗しないTEAC E-2の正しい使い方(儀式)
バルクイレーサーは強力すぎるがゆえに、手順を間違えるとテープに強いノイズを書き込んでしまい、使い物にならなくしてしまいます。
以下のステップバイステップの手順を「儀式」として体に叩き込んでください。
Step 0:準備と安全確認(最重要!)
- 腕時計を外す: 機械式時計をしたまま操作すると、時計が磁気帯びして壊れます。
- 磁気カードを遠ざける: クレジットカードやスマホも数メートル離してください。
- デッキから離れる: Revox本体の近くで使うと、デッキのヘッドやメーターが磁化してしまいます。必ず離れた場所で作業してください。
それくらい強力です。
Step 1:電源ON
テープを置く前に、E-2のトグルスイッチをONにします。「ブーン」という唸り音と共に振動が始まります。
注意
テープを置いてからスイッチを入れると、「バチッ」という強烈なノイズが記録されることがあるため、必ず「空の状態」でONにします。
Step 2:テープを近づけ、回転させる
テープ(リール)を持って、E-2の黒い台座部分へゆっくり近づけ、密着させます。
そのまま円を描くように、リールをゆっくりと回転させます。
- 目安: 1回転に3〜4秒かけ、まんべんなく磁界を浴びせます。これを2〜3周行います。
Step 3:フェードアウト(ここが命!)
ここが最も重要です。
いきなりスイッチを切ってはいけません。
リールをゆっくり回し続けながら、垂直方向(または水平方向)に、ゆっくりと、非常にゆっくりとテープを遠ざけていきます。
磁界の影響がなくなる距離(約1メートル)までテープを離したら、そこで初めてE-2のスイッチをOFFにします。
- なぜ?: 交流磁界はプラスとマイナスが高速で入れ替わっています。遠ざけながら徐々に磁力を弱めていくことで、テープの磁気が「ゼロ(ランダム)」の状態に落ち着きます。近くで急に切ると、その瞬間の磁気が強力に記録されてしまいます。
Step 4:裏面も同様に
リールを裏返し、反対面もStep 2〜3の手順を行います。これで完全消去完了です。
第4章:よくある疑問(Q&A)
Q. 使いすぎると熱くなりませんか?
A. なります。めちゃくちゃ熱くなります。
E-2は巨大な電磁石なので、長時間通電すると発熱します。説明書には「連続使用は10分〜20分程度まで」等の記載があるはずです(モデルによる)。リール数本を処理したら、スイッチを切って冷ます時間を設けてください。これを「デューティー比(使用率)」といいます。
Q. メタルテープも消せますか?
A. 消せますが、完全ではない場合があります。
メタルテープ(Type IV)は保磁力が非常に強いため、E-2のパワーでも消しきれないことがあります。その場合は、回数を増やすか、より強力な業務機が必要になりますが、通常のオープンリールテープ(酸化鉄)ならE-2で完璧です。
Q. リール(金属製・プラ製)ごとかけて大丈夫?
A. 大丈夫です。
アルミ製やプラスチック製のリールは磁化しないので、そのままかけてOKです。ただし、リール自体が熱を持つことはありません。
まとめ:Revoxの「キャンバス」を真っ白にする
録音エンジニアにとって、使用済みのテープは「書き込みのある黒板」のようなものです。
デッキの消去ヘッドで消すのは、黒板消しでサッと拭くようなもの。
よく見ると前の文字がうっすら見えたりします。
対して、TEAC E-2を使うことは、黒板を水拭きして新品同様にピカピカにする行為です。
真っさらになったテープに、Revox B77で最初の音を刻む瞬間。
さあ、時計を外して、消去の儀式を始めましょう。