【特別講義】Revox B77修理の秘密兵器!「直流安定化電源」で基板単体テスト環境を構築せよ

B77の本体が重くて、調整箇所に手が届かない…」
「通電しながら部品を触るのが怖い…」

そんな悩みを解決するのが、「直流安定化電源(GP050-2)」です。
これと、前回学んだ
「ジェネレーター」、そして「オシロスコープ」の3つが揃うことで、B77本体を使わずに、基板単体だけを机の上で動かして調整するという、高度なメンテナンスが可能になります。

いわば、「B77の心臓(電源)」と「B77の神経(信号)」を、外部の機械で代行するのです。

1. この機械の正体:Takasago GP050-2とは?

この機械は、コンセントの交流(AC100V)を、極めてきれいな「直流(DC)」に変換する装置です。
ただのACアダプタとは違い、以下のプロ仕様の機能を備えています。

  • CV(定電圧)機能: どんなに負荷がかかっても、設定した電圧(例:21V)をピクリともさせずに維持します。
  • CC(定電流)機能: 万が一、基板がショートしていても、設定した電流以上は流さない「安全装置」がついています。これで貴重なヴィンテージ基板を焼き切る事故を防げます。
  • スペック: 0〜50Vまでの電圧を、最大2A(スイッチ切り替えで1A)まで供給できます。

2. なぜこれが必要なのか?(基板単体調整のメリット)

Revox B77のキャプスタンモーター制御基板(Speed Control PCB)は、本体の奥深くにあり、動作中に裏側の半固定抵抗を回すのは至難の業です。
また、本体の電源には高電圧部もあり危険です。

そこで、以下のステップを踏みます。

  1. 摘出: B77から「速度制御基板」だけを抜き取る。
  2. 代行(電源): GP050-2から、基板に動力(DC21V)を供給する。
  3. 代行(信号): ジェネレーターから、モーターが回っているフリをする信号(タコパルス)を送る。
  4. 執刀: オシロスコープで波形を見ながら、安全かつ快適に半固定トリマーを調整する。

この「三種の神器(電源・発振器・波形計)」が揃って初めて、安全で完璧なキャリブレーション(校正)が可能になるのです。

3. GP050-2の使い方とB77用の設定

それでは、GP050-2のパネルを見ながら、具体的な設定手順を解説します。

① 準備:ショートバーの確認

写真の手前端子を見てください。
「-(マイナス)」端子と、真ん中の「GND(グランド)」端子が、金属の板(ショートバー)で繋がっていますね?

  • これ重要です! この状態で使うことで、マイナス端子がアース(基準電位0V)になります。
    絶対に外さないでください。

② スイッチの設定

右側のトグルスイッチを確認します。

  • 0-50V 1A / 0-25V 2A: B77の基板は21V程度で動くので、より細かく調整できる「0-25V 2A(下側)」にしておくと良いでしょう(50Vレンジでも問題ありません)。

③ 電圧の設定(B77の心臓を作る)

B77のキャプスタン制御基板は、サービスマニュアルによると「DC 21V」で動作します。

  1. 何も繋がずに、GP050-2の電源を入れます。
  2. 「CONST CURR(電流制限)」ツマミを右に回しきっておきます(あるいは半分くらい)。
  3. 「CONST VOLT(電圧調整)」ツマミをゆっくり回して、左のメーター(VOLTS)の針が「21(20の一つ右の目盛り)」を指すように合わせます。
    • ※テスターをお持ちなら、出力端子で測って正確に21.0Vにすると完璧です。
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  • 赤のケーブル: 右下の VΩmA と書かれた穴に挿さっていますか? 
  • 黒のケーブル: 真ん中の COM と書かれた穴に挿さっていますか? 

一応初心者向けにガイドしていきます。

  1. ダイヤルの左上エリアにある「直流電圧(Vにーと…のマーク)」のゾーンを見てください。
  2. 数字がいくつかありますが、「200」に合わせてください。
    • ※なぜ「20」じゃないの?
      • 測りたい電圧が「21V」だからです。「20」のレンジだと、20Vを超えた瞬間に測定不能(エラー)になってしまいます。21Vを測るには、その一つ上の「200」を使います。

まだ電源(GP050-2)のスイッチは入れないでください。
先に繋ぎましょう。
手が滑らないように、テスターの棒の先端を、電源の端子の穴に差し込むか、ワニ口クリップがあればそれで挟むのが確実です。

  1. テスターの赤棒 → GP050-2の「+(プラス)赤端子」へ
  2. テスターの黒棒 → GP050-2の「GND(または-)黒端子」へ
    • ※前回確認したショートバー(金属板)がついている黒い方です。

準備ができたら、調整を開始します。

  1. 電源ON: GP050-2の電源スイッチを入れます。
  2. テスターを見る: 液晶画面に数字が出ましたか?(例:18.5 とか 22.1 とか)
  3. 調整する:
    • GP050-2の左下のツマミ「CONST VOLT」をゆっくり回してください。
    • アナログメーターの針は見なくていいです。テスターの数字だけを凝視してください。
  4. ゴール:
    • テスターの表示が「21.0」になったところで手を止めます。
    • 多少ふらついて「20.9」〜「21.1」の間を行き来するくらいなら許容範囲です。
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これで、この箱は「Revox B77の電源ユニット」に変身しました。

4. 三位一体の接続図(脳内シミュレーション)

次回の実践編では、机の上で以下のように接続します。
これが最終形態です。

  1. GP050-2(電源)
    • プラス(赤) → 基板の「+21V入力ピン」へ
    • マイナス(黒) → 基板の「0V(GND)ピン」へ
    • 役割:基板に命を吹き込む
  2. ジェネレーター(発振器)
    • OUTPUT(赤) → 基板の「タコヘッド入力ピン」へ
    • GND(黒) → 基板の「0V(GND)ピン」へ
    • 役割:モーターが回っていると騙す信号を送る
  3. オシロスコープ(計測器)
    • プローブ(CH1) → 基板の「テストポイント(TP)」へ
    • GND(黒) → 基板の「0V(GND)ピン」へ
    • 役割:回路が正しく制御しているか監視する

まとめ

師匠から借りた「GP050-2」は、ただの電池の代わりではありません。
それは、B77という巨大なシステムから、患部(基板)だけを切り離して治療するための
「生命維持装置」です。

  • 電圧設定: DC 21V
  • 電流リミッタ: 万が一のショートから基板を守る盾

これで役者は全て揃いました。

  • オシロスコープ(目)
  • ジェネレーター(声)
  • 安定化電源(血液)

次回、いよいよ【上級編】。
実際にB77の基板を取り出し(あるいはバックパネルを開け)、これらを接続して、半固定トリマーを回す「最高の瞬間」を迎えましょう。