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電子工作やオーディオ修理を始めたいけれど、オシロスコープって難しそう…」
「テスターと何が違うの? どうやって選べばいいの?」
そんな疑問をお持ちではありませんか?
この記事では、コストパフォーマンスに優れた4チャンネル・デジタルオシロスコープ「OWON SDS1104」を実際に導入した筆者が、これからオシロスコープを学びたい方に向けて、その仕組みから選び方、使う前の準備までを徹底解説します。
今回の最終目標は、ヴィンテージ・オープンリールデッキ「Revox B77」の速度調整です。
しかし、その前にまずは基礎を固めましょう。
これが分かれば、オーディオ機器の修理から電子工作まで、あなたの技術レベルは一気に向上します。
1. オシロスコープとは? 電気の「聴診器」ではなく「レントゲン」
まず、オシロスコープとは何かを一言で言うと、「時間の経過とともに変化する電圧を、グラフ(波形)として表示する装置」です。
多くの人が持っている「テスター(マルチメーター)」と何が違うのでしょうか?
- テスター: 「今、この瞬間の電圧(または平均値)」を数字で表示する。
- 例:乾電池の残量、コンセントの電圧など。
- オシロスコープ: 「電圧がどう変化しているか」を波形(映像)で表示する。
- 例:音声信号の形、ノイズの混入、信号のタイミングなど。
例えるなら、テスターは「聴診器」(音や数値で異常を探る)、オシロスコープは「レントゲンやMRI」(体の中身を映像で可視化する)です。
Revox B77のようなオーディオ機器修理では、「電圧が合っているか」だけでなく、「波形が綺麗か(歪んでいないか)」「周波数(速度)が正しいか」を見る必要があるため、オシロスコープが必須となるのです。
2. オシロスコープの歴史と仕組み
少しだけ歴史に触れておきましょう。
ここを知ると、機械への愛着が湧きますよ。
アナログ・オシロスコープ(ブラウン管)
昔のオシロスコープは、テレビと同じ「ブラウン管(CRT)」を使っていました。
電子ビームを蛍光面にぶつけて光らせる方式です。
- 特徴: 波形の反応がリアルタイムで美しいが、重くて大きく、一瞬の現象を「保存」することができませんでした。
デジタル・オシロスコープ(DSO)
現在主流のタイプです。
今回購入したOWON SDS1104もこれに分類されます。
入力された電気信号を「ADコンバータ」という部品でデジタルの数値に変換し、液晶画面に表示します。
- 特徴: 軽量・薄型。波形をメモリに保存したり、自動で計測したりする機能が充実しています。
3. どんな人が持つべき? 何に使えるの?
「自分にはオーバースペックでは?」と思う必要はありません。
以下のような人は、オシロスコープを持つことで世界が変わります。
こんな人におすすめ
- オーディオ機器の修理・メンテナンスをする人
- アンプの歪みチェック、Revox B77のようなテープデッキの回転数調整。
- 電子工作(ArduinoやRaspberry Pi)をする人
- センサーが正しく動いているか、通信信号が出ているかの確認。
- 自動車バイクの整備(電装系)をする人
- 点火プラグの信号やセンサーのノイズ確認。
オシロスコープでできること
- 信号を見る: 音声信号がどこで途切れているか探す(修理)。
- 周波数を測る: 1秒間に何回振動しているか測る(モーター速度調整など)。
- ノイズを見つける: 電源ラインに不要なギザギザ(ノイズ)が乗っていないか確認する。
4. OWON SDS1104のスペックを読み解く(選び方のポイント)
OWON SDS1104は、初心者が最初に手にする一台として非常に優秀なスペックを持っています。
カタログスペックの意味を理解しましょう。
① 帯域幅(Bandwidth):100MHz
「どれくらい速い信号まで見ることができるか」という性能です。
- オーディオ修理: 人間の可聴域は20kHz(0.02MHz)程度なので、100MHzあれば超余裕です。
- デジタル回路: マイコン工作などでも100MHzあれば十分対応できます。
② チャンネル数(Channels):4CH
「同時にいくつの信号を見比べられるか」です。
- 通常のエントリー機は2CHが多いですが、この機種は4CHあります。
- メリット: 「入力信号」と「出力信号」を見比べながら、さらに「電源電圧」と「制御信号」を同時に監視する、といった高度な作業が可能です。
③ サンプリングレート:1GS/s
「1秒間に何回、電気の値を読み取るか」です。1GS/s(ギガ・サンプル/秒)は、1秒間に10億回計測するという意味です。これが高いほど、細かい波形を正確に再現できます。
④ メモリ長:20K
波形をどれだけ長く記録できるかです。エントリークラスとしては標準的ですが、オーディオ調整には十分です。
結論: OWON SDS1104は、オーディオ修理からデジタル工作まで長く使える、非常にバランスの良い「賢い選択」です。
5. 【実践】開封から測定準備まで
、「まず箱から出して、何も考えずに波形を出すところ」までを、写真付きのマニュアルを見るような感覚でガイドします。
そして、オシロスコープにある「たくさんのツマミ」が、実は大きく分けて2つの機能しかない、ということを解説します。
まずは、理屈抜きで「とりあえず波形を画面に出す」手順と、「画面を自在に操るツマミの意味」を徹底解説します。
5-1. 付属品の「プローブ」って何?
箱の中に、グレーのケーブルが入っていますね。
これを「プローブ」と呼びます。
テスターで言うところの「赤・黒の棒」です。
これをオシロスコープにつないで電気を拾います。
プローブには重要な3つのパーツがあります。
- BNCコネクタ(根本): オシロスコープ本体に挿す金具。押し込んで右に回すとロックされます。
- フック(先端): ペンのようになっている先端の帽子を少し引くと、中から「カギ爪」が出てきます。これで測定したい部品を引っ掛けます。
- ワニ口クリップ(黒い短い線): 重要です! これを「グランド(GND)」と呼びます。
- 解説: 電気の高さ(電圧)を測るには「基準となる0地点(地面=グランド)」が必要です。テスターの「黒い棒」と同じ役割です。これを繋がないと正しい波形は出ません。
5-2. 【実践】最初の波形を出してみよう(自分自身を測る)
オシロスコープには、「自分が正しく動いているかテストするための信号(校正信号)」を出す機能がついています。
まずはこれを測ってみましょう。
手順①:プローブをつなぐ
- プローブの根本(BNCコネクタ)を、本体の「CH1(チャンネル1)」の端子に差し込み、右に回してロックします。
手順②:プローブのスイッチ確認
- プローブの手持ち部分にスライドスイッチがあります。
- 「×10」に合わせてください。
- ※とりあえず今は「×10が基本」と覚えておけばOKです。
手順③:テスト端子に引っ掛ける
ここが一番のポイントです。
本体の右下あたりを見てください。
小さな金属の金具が2つ飛び出していませんか?(通常、上の金具の横に「5V 1kHz」などの文字があります)
- プローブの先端(フック): 上の金具(信号が出ている方)に引っ掛けます。
- ワニ口クリップ(グランド): 下の金具(GNDマークがある方)に挟みます。
手順④:魔法のボタン「Auto Set」
- 電源を入れます。
- 画面にはまだ変な線が出ているかもしれません。
- 本体の右上あたりにある**「Auto Set(またはAuto)」**というボタンを1回押してください。
どうでしょう?
「カチカチ」と音がして、画面に綺麗な「四角い波形」が表示されたはずです。
これができれば、初級編の第一関門クリアです!おめでとうございます。
5-3. ツマミの意味を知る(実は「縦」と「横」しかない)
オシロスコープにはたくさんのツマミがありますが、実は操作系統は大きく「縦(電圧)」と「横(時間)」の2つしかありません。
スマホで写真を拡大・縮小するのと同じです。
SDS1104のパネルを見てみましょう。
エリアごとに分かれています。
① VERTICAL(垂直軸)エリア = 「縦」の操作
画面の波形を「縦方向にどう表示するか」を決めるエリアです。
- POSITION(ポジション)ツマミ
- 機能: 波形を「上下に移動」させます。
- いつ使う?: 波形が重なって見にくい時や、画面の上の方に動かしたい時に回します。
- VOLTS/DIV(ボルト・パー・デブ)ツマミ ※一番大きなツマミ
- 機能: 縦方向の「拡大・縮小」です。
- 解説: 左に回すと波形がペチャンコになり(広範囲を見る)、右に回すと波形が縦に伸びます(詳細を見る)。
- ※REVEX B77の信号が小さすぎて見えない時は、これを右に回して拡大します。
② HORIZONTAL(水平軸)エリア = 「横」の操作
画面の波形を「横方向にどう表示するか」を決めるエリアです。
- POSITION(ポジション)ツマミ
- 機能: 波形を「左右に移動」させます。
- いつ使う?: 「今の瞬間」より少し「前の波形」を見たい時に回します。
- SEC/DIV(セック・パー・デブ)ツマミ ※大きなツマミ
- 機能: 横方向の「拡大・縮小」です。
- 解説: これが一番重要です!
- 右に回すと:時間が引き伸ばされます(高速な動きをスローモーションで見るイメージ)。
- 左に回すと:時間が圧縮されます(長い時間の変化をぎゅっと縮めて見るイメージ)。
- ※REVEX B77の周波数調整では、このツマミで見やすい幅に調整します。
5-4. なぜ「Trigger(トリガー)」が必要なのか?
最後に、右端にある「Trigger」というエリアについて少しだけ。
オシロスコープの波形を見ていると、波が流れてしまって止まって見えないことがあります。
トリガーとは、「波形を画面に止めて見やすくする機能(写真のシャッター)」です。
- LEVEL(レベル)ツマミ
- 画面の右端に小さな矢印が出ます。これを回して、波形の中に矢印が入るようにすると、波形がピタッと止まります。
- ※もし波形が流れて見にくいときは、「Auto Set」を押せば機械が勝手に合わせてくれます。初心者は困ったら「Auto Set」で大丈夫です。
初級編まとめ
これで、オシロスコープを操作する準備が整いました。
- プローブ: 先端で信号を拾い、ワニ口クリップ(グランド)は必ず基準点(金属ボディやGND端子)に繋ぐ。
- Auto Set: 困ったらこれを押せば、とりあえず波形が出る。
- ツマミの基本:
- 縦のツマミで、波の高さを変える(見やすく拡大・縮小)。
- 横のツマミで、波の幅を変える(時間の流れを変える)。
これだけ覚えておけば、もうジェネレーターを繋いでも怖くありません。
次回【中級編】では、お持ちのジェネレーター(DACATRON 8202)とつないで、実際にいろいろな形の波を出して遊んでみましょう。