日本人だけの「黄金のチケット」:日蘭通商航海条約・完全解説

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もし「海外で挑戦したい」と思っているなら、オランダ以外の国を選ぶのは、わざわざ茨の道を歩くようなものかもしれません。

なぜなら、我々日本人には、ご先祖様が残してくれた「最強の遺産」があるからです。

それが、1912年に結ばれた「日蘭通商航海条約」です。

この条約のおかげで、日本人はオランダにおいて、アメリカ人や中国人、他のどのアジア人とも違う「別格の扱い(VIP待遇)」を受けることができるのを知っていましたか?

今回は、この条約の仕組みと、実際にどうすればビザが降りるのかを、世界一わかりやすく解説していきます。

1. なぜ「日本人だけ」優遇されるのか?

〜「スイス人のふり」ができる魔法のロジック〜

まず、この条約の魔法の仕組みを理解していきましょう。
実は、日蘭条約そのものに「日本人を移住させろ」とは書いていません。

書いてあるのは「最恵国待遇(さいけいこくたいぐう)」という言葉だ。

これを超訳すると、こうなります。

日本: 「ねえオランダさん、僕たち友達だよね(1912年の条約)。約束通り、君の『一番の親友』と同じ扱いにしてくれるよね?」

オランダ: 「もちろん」

日本: 「君の『一番の親友(スイス)』とは、お互いに自由に住んで仕事していい契約(オランダ・スイス条約)を結んでるよね?」

オランダ: 「あ、うん…」

日本: 「じゃあ、僕(日本)もスイスと同じ条件で、自由に住んでいいってことだよね?

オランダ: 「…ぐぬぬ。その通りです(論理的に反論不可)」

これが、日本人だけが個人事業主ビザを簡単に取れる「カラクリ」です。
これは裁判(2014年の判例)でも確定している、揺るぎない権利となるわけです。

2. 驚愕の「条件」比較

〜他国の人 vs 日本人〜

どれくらい優遇されているか、比較すれば一目瞭然。

条件・項目一般的な外国人(非EU)日本人(日蘭条約適用)
ビザの種類スタートアップビザ等個人事業主ビザ
審査基準ビジネスの革新性、国益への貢献度を厳しく審査(ポイント制)実質審査なし(書類が揃っていればOK)
必要資本金見込みなし(事実上、非常に高額な投資や実績が必要)約4,500ユーロ(約75万円) ※
労働許可必要(取得困難)不要(自由に働ける)
  • ※4,500ユーロという金額は、オランダの法律上の最低ラインではなく、実務上「これだけあれば当面生活できるとみなされる」目安。

見ての通り。
通常なら「あなたのビジネスがいかにオランダに利益をもたらすか」を何十ページもの英語の事業計画書で証明し、審査官を説得しなければいけません。

しかし、日本人は「日本人であること」と「4,500ユーロを持っていること」だけで、その壁を突破できるわけです。

筆者は日本が大好きですし、愛国心もありますが、今の日本は先進国ではありません。
これは事実として受け止める必要があります。

わずかな努力だけで先進国に移住できるというこのルールは本当に特別な権利だと思います。

3. 具体的な取得ステップと必要スペック

では、実際に私がこれから行う手続きをシミュレーションしてみましょう。
これからオランダを目指す人は、ぜひチェックしてください。

【STEP 0:日本での準備】

  1. パスポート: 必須。
  2. 戸籍謄本(アポスティーユ付き):
    • ここが最初の難関。「アポスティーユ」とは、外務省がくれる「この書類は本物ですよ」というお墨付きスタンプだ。出生証明として使う。
  3. 資金の確保:
    • 最低でも4,500ユーロ。しかし、家を借りるための初期費用や生活費を考えれば、200〜300万円(12,000〜18,000ユーロ)は用意して渡航しないと、ビザの前に生活が破綻する。

【STEP 1:オランダ到着・住所確保】

  • 観光ビザ(90日)で入国する。
  • 最大の壁:「住所登録(BRP)」
    • オランダでビザ申請するには、まず「住民登録」ができる家を見つけなければならない。
    • ホテルやAirbnbではダメな場合が多い。この「家探し」こそが、現在のオランダ移住における最大のボスキャラとなります。

【STEP 2:移民局(IND)へ申請】

  • 「私は日本人です。条約に基づいて滞在許可を申請します」と宣言し、仮滞在許可をもらう。これで90日を超えても滞在できる。

【STEP 3:商工会議所(KvK)へ登録】

  • 個人事業主(ZZP)の登録を行う。
  • 必要なもの:
    • 簡単な事業計画(Business Plan)。どんなビジネスをするか?
    • パスポート、住所証明。

【STEP 4:ビジネス銀行口座の開設と資本金注入】

  • KvKの登録証を持って、銀行(ING, ABN AMRO, Bunqなど)へ行く。
  • ビジネス口座を開設し、ここに4,500ユーロを入金。
  • 会計士(Accountant)のサイン: 「確かにこの口座に4,500ユーロあり、これは借金ではなく自己資金です」という証明書(Balance Sheet)を、オランダの会計士に作ってもらう。これがINDへの提出書類となる。

【STEP 5:ビザ(滞在許可証)ゲット】

  • 書類を全てINDに提出。数週間〜数ヶ月で、晴れて「Residence Permit」のカードが発行される。
  • 有効期限は通常2年(その後5年に更新可)。

4. 注意点とリスク:甘い話だけではない

ここまで読むと「楽勝じゃん」と思うかもしれない。
しかし、現場には落とし穴がある。

① 「4,500ユーロ」はずっと維持しなきゃダメ?

  • 基本的には「申請時」にあることが条件。
  • しかし、使ってしまって残高がゼロになると、更新時に「事業がうまくいっていない」とみなされるリスクがある。事業で稼いで、残高を増やすのが健全です。

② 家が見つからない

  • 前述の通り、ハウジング・クライシス(住宅危機)は深刻だ。
  • 「住所がないとビザ申請できない」のに「ビザがないと家を貸してくれない」という「卵と鶏のジレンマ」に陥る人が続出するんです。
  • シェアハウスや短期アパート、あるいは現地のコネクションを駆使して、何としても最初の住所を確保する必要があります。

③ 税金と保険が高い

  • オランダの健康保険は強制加入で、月額2万円〜(約140ユーロ〜)かかる。
  • 所得税も高い。稼いだ分の半分は税金と保険で消える覚悟が必要。

住居確保のためのゲリラ戦略

オランダの不動産仲介業者(Makelaar)を通す「正攻法」は、「オランダでの雇用契約書」と「家賃の3〜4倍の月収証明」がないと、門前払いです。
フリーランス、しかも来たばかりの日本人が正面突破するのは、ほぼ不可能です。

しかし、「友人・知人・個人の大家」との直接契約なら、交渉次第でなんとでもなります。
重要なのは「住民登録(Inschrijving / インスフライフィング)」が可能かどうかの1点のみです。
これさえできれば、ビザは取れます。

「登録可能な住所」を確保するための、裏ルートを含めた泥臭い戦略(ゲリラ戦術)をリストアップしました。

戦術1:日本人コミュニティサイト「MixB」に張り付く

【難易度:低 / 確度:中】

ヨーロッパ在住日本人の生命線、掲示板サイト「MixB(ミックスビー)」のオランダ版です。
ここには「日本に帰国するので次の方募集」「ルームメイト募集」という案件が出ます。

  • メリット: 大家やメインの借主が日本人である場合が多く、審査が緩い。「日本人=綺麗に使う」という信頼があるため、借りやすい。
  • アクション:
    • 「売ります・買います」や「不動産」コーナーを1日10回リロードして監視する。
    • 自分から投稿する: 「家賃〇〇ユーロまでで、登録可能な部屋を探しています」と熱意ある投稿をすると例えば業界関係の日本人が反応する可能性があります。

戦術2:ハーグ王立音楽院の掲示板・学生を狙う

【難易度:中 / 確度:高 / ターゲット:古楽科】

例えばデン・ハーグには王立音楽院があり、多くの学生や卒業生がシェアハウスに住んでいます。

  • 狙い目: 卒業シーズンや新学期前。または、ツアーで長期間家を空ける音楽家。
  • アクション:
    • Facebookグループ: 「Royal Conservatoire The Hague Housing」などの学生向けグループに参加する。

戦術3:Kamernet(カマーネット)で「個人の大家」を撃つ

【難易度:高 / 確度:中】

オランダ最大の「ルームシェア・部屋貸し」サイトです。
仲介業者ではなく、大家やメインの借主と直接やりとりします。

  • 特徴: 英語でOK。写真を見て、メッセージを送る。
  • コツ: プロフィールを充実させること。ウェブサイトなどを見せ、「私は怪しい人物ではない」とアピール。
  • 注意: 返信率は低いですし、100件送って5件返ってくれば良い方。心を無にして送り続ける必要があります。

戦術4:「アンチ・クラーク(Antikraak)」というオランダ独自の秘技

【難易度:中 / コスパ:最強 / 居住性:?】

オランダには「空き家対策法」に基づき、取り壊し予定の学校、オフィス、病院などを激安で住居として貸し出す「Antikraak(アンチ・スクワット)」というシステムがあります。

  • メリット:
    • 家賃が異常に安い(月200〜300ユーロなど)。
    • 元教室やオフィスなので、部屋が巨大。機材を置くには最高。
    • 住民登録が可能な物件が多い(要確認)。
  • デメリット:
    • 「来月出て行って」と言われたら即退去しなければならない。
    • シャワーが共同だったり、設備が簡素。
  • サイト: Ad Hoc, Mosaic World (旧Camelot) などの管理会社に登録して空きを待つ。例えばアーティストという職業は「変な建物を面白がって使える」ので向いています。

戦術5:Facebook Marketplaceとグループの「直談判」

【難易度:高 / リスク:高】

Facebookには「Expats in The Hague」「Den Haag Housing」などのグループが無数にあります。

  • メリット: 仲介手数料ゼロ。スピード勝負。
  • 最大のリスク:詐欺(Scam)が横行しています。
    • 「鍵を送るから先にお金を振り込んで」は100%詐欺なので注意。
    • 必ず「現地で内見してから」払うこと。まだ日本にいる場合は、ビデオ通話で部屋と大家の顔を確認すること。

戦術6:【最後の手段】The Social Hub(旧 Student Hotel)

【難易度:低 / コスト:高】

どうしても見つからない場合の「安全策」です。
ホテルとアパートの中間のような施設で、住民登録が可能です。

  • メリット: オンラインで予約完了。確実に登録できる。家具付き。
  • デメリット: 家賃が高い(月1000〜1500ユーロ〜)。
  • 戦略: 最初の2〜3ヶ月だけここを予約してビザを取り、現地に入ってから安いシェアハウスを足で探す。ビザ取得のための「必要経費」と割り切る方法です。

この日蘭通商航海条約は、「腕一本で勝負したい職人」のためにあるような制度です。

大企業に雇われる必要はない。
誰かに頭を下げる必要もない。
4,500ユーロと、看板、そしてそれを証明する技術があれば、オランダは歓迎してくれます。