マイクの「数字」が読めれば、音は聴かずに想像できる〜Austrian Audio CC8-SCに学ぶ、最強のスペック表の歩き方

「新しいマイクが出たらしいけど、音はどうなの?」
「とりあえずYouTubeでレビュー動画を探そう」

もちろんレビュー動画を探すのもOKだけど、レビューができる側にはなれない。
これを機会にぜひスペックの読み方を覚えよう。

録音エンジニアは、音を聴く前に「紙(データシート)」を読み、スペックを確認します。
そこに書かれている数字とグラフを見れば、そのマイクがどんな音をするのか?だいたいのイメージができるようになります。

今日は、記事を書いている間に新発売となったAustrian Audio CC8-SCを例にマイクロフォンのスペックを読む方法を伝授します!

このマイク、控えめに言って「バケモノ」級。
ダイナミックレンジ 132dB。Max SPL 155dB。
この数字が何を意味するか?
それは、「蚊の羽音からジェット機のエンジン音まで、歪まずに録れる」ということを意味しています。

今回は、カタログの難解な数字を「現場で使える知識」に翻訳する技術を伝授しよう。

マイクの履歴書:見るべき4つの最重要項目

マイクの仕様書にはたくさんの数字が並んでいますが、現場で命に関わるのは以下の4つになります。

  1. 周波数特性(Frequency Response): どの高さの音まで録れるか?
  2. 等価雑音レベル(Self Noise): マイク自体がどれくらい静かか?
  3. 最大音圧レベル(Max SPL): どれくらいデカい音まで耐えられるか?
  4. ダイナミックレンジ(Dynamic Range): 扱える音の大小の幅。

Austrian Audio CC8-SCは、この4つのバランスが異常に高いレベルでまとまっている。
一つずつ見ていきましょう。

このラインより上のエリアが無料で表示されます。

【周波数特性】20Hz〜20kHz:定規のように真っ直ぐか?

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画像引用:サンレコ
  • スペック: 20Hz – 20kHz
  • 意味: 人間の耳に聞こえる一番低い音から、一番高い音まで全部拾いますよ、ということ。

可聴範囲を把握しておくのは基礎知識になります。
ちなみにDPA4006のスペックは10Hz~20kHz。

重要なのは「幅」ではなく「グラフの形」になります。
CC8-SCのグラフを見ると、驚くほど
「フラット(平ら)」です。
CC8-SCは、20Hzから20kHzまで定規で引いたように真っ直ぐ伸びていますよね。
これは、「色付けせず、空気の振動をそのまま電気に変える」という、DPA的な透明感をある程度期待できるマイクであることを示しています。

EQで補正する必要がない、極めて扱いやすい優等生だ。

【等価雑音レベル】13dB SPL:小口径なのに「静寂」

  • スペック: 13dB SPL (A-weighted)
  • 意味: 無音の部屋でマイクを繋いだ時、マイク自身が出す「サーッ」というノイズの大きさ。

一般的に、CC8のような「スモールダイアフラム(膜が小さい)」マイクは、物理的にノイズが増えやすい傾向にあります。
通常は15dB〜20dBくらいが相場。
しかし、13dB、これはラージダイアフラム(膜が大きいマイク)並みの静けさになります。

これが低いとどうなるか?
アコースティックギターの指弾きや、遠くの環境音を録る時に、「ゲインを上げてもサーッと言わない」
つまり、繊細な録音において最強の武器になる。

※ちなみに「A-weighted(A特性)」とは、人間の耳の感度に合わせて補正した数値のことだ。

【最大音圧レベル】Max SPL 155dB:スネアに突っ込んでもOK

  • スペック: Max SPL 155dB
  • 意味: この音量を超えると音が歪んで(クリップして)使い物にならなくなります、という限界点。

【155dBの異常さ】

  • 120dB: 飛行機のエンジンの近く。
  • 140dB: 銃声。
  • 155dB: ……人類が鼓膜で聴けるレベルを超えている。

一般的なコンデンサーマイクは130dB〜140dBくらいで歪み始めます。
しかし155dBということは、ドラムのスネアにゼロ距離で近づけても、トランペットのベルの中に突っ込んでも、絶対に歪まないことを保証しています。

「繊細なのに、バカみたいにタフ」。
これが現代の技術で作られたマイクの凄みといえます。


【ダイナミックレンジ】132dB:広大なキャンバス

  • スペック: 132dB
  • 計算式: Max SPL (155dB) - 等価雑音 (13dB) ≒ 142dB…あれ?

通常は引き算だが、回路の余裕などを含めて実効値として132dBが保証されています。
(※Max SPLの測定条件や歪み率の定義によるが、細かいことは置いておこう)

重要なのは「132dBという広さ」。

床(ノイズ)は低く、天井(Max SPL)は遥か彼方。

https://note.com/embed/notes/n7181c3cdc307



このマイクを使えば、ささやき声から絶叫まで、一度もゲインを触らずに録り切ることができる。

まとめ:CC8-SCは「現代の精密兵器」である

スペック表から見えてくる Austrian Audio CC8-SC の正体はこうだ。

  • 音質: 嘘をつかない超フラットな特性。
  • 耐性: どんな爆音にも耐えるタフネス。
  • 静寂: 小口径とは思えないローノイズ。
  • 指向性: SC(Super Cardioid)なので、横からの音(ハイハットのかぶりなど)をスパッと切る。

つまり、「ドラムの録音から、クラシックのホール録音まで、何でもハイレベルにこなす万能精密兵器」と言えます。

スペック表は、マイクからの「自己紹介状」のようなもの。
これを読めるようになれば、あなたは機材を買う前にある程度の音質をイメージすることができます。

そして、手にした機材の限界(天井と床)を知り、安心して現場で攻めることができるわけです。

さあ、あなたの手元にあるマイクの仕様書を、今すぐネットで検索してみろ。
そこには、あなたがまだ知らない「相棒の真の実力」が書かれているかもしれませんよ!
これでDPA4006のスペック表を見れますね!

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画像引用:ヒビノ