キャプスタンモーターの「種類」と「FGサーボ」を徹底解説|なぜRevoxの回転は狂わないのか?

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「このデッキはFGサーボだよ」
ベテランエンジニアからそんな言葉を聞いたことはありませんか?

キャプスタンモーターは、テープデッキにおいて「時間(タイム感)」を支配する心臓部です。
ここが不安定だと、ピッチが揺れ、リズムがヨレて、音楽が台無しになります。

実は、テープデッキのモーターには「AC」「DC」といった種類の他に、「どうやって速度を一定に保つか?」という制御方式に大きな違いがあります。
その到達点の一つが「FGサーボ」です。

今回は、Revox B77の修理にも直結するモーターの種類の話と、謎の言葉「FGサーボ」の正体を、エンジニア視点で徹底解説します。

第1章:そもそも「キャプスタンモーター」とは?

オープンリールやカセットデッキには、通常2〜3個のモーターがあります。

  1. リールモーター: テープを巻き取るための力持ち(精度はそこそこでいい)。
  2. キャプスタンモーター: テープスピードを一定に保つための指揮者(超高精度が必要)。

キャプスタン(Capstan)とは、ゴムローラー(ピンチローラー)とセットでテープを挟み込み、一定速度で送り出す金属の軸のこと。
この軸を回しているのがキャプスタンモーターです。

ここには、以下の3つの主流なタイプが存在します。

第2章:キャプスタンモーターの「3大勢力」

年代やメーカーによって、採用されているモーターが全く違います。

1. ACシンクロナス・モーター(ヒステリシス・シンクロナス)

  • 代表機: TEAC A-series (初期), 古い国産機
  • 仕組み: コンセントの電気(AC100V 50Hz/60Hz)の「周波数」に同期して回るモーター。
  • メリット: 構造が単純で頑丈。壊れにくい。
  • デメリット:
    • 地域で部品交換が必要: 50Hz地域(東日本)と60Hz地域(西日本)で、プーリー(滑車)を交換しないと回転数が変わってしまう。
    • 微調整が不可: 電源周波数に依存するため、ピッチコントロールができない。

2. DCサーボ・モーター

  • 代表機: 多くのカセットデッキ、後期の国産オープンリール
  • 仕組み: 直流(DC)で動くモーター。電圧を変えることで自由に速度を変えられる。
  • メリット: 小型でトルクがある。ピッチコントロールが容易。
  • デメリット:
    • ブラシ摩耗: 内部にブラシという接触部品があり、寿命がある(ノイズの原因になる)。
    • コギング: 安いものは回転がカクつくことがある。

3. ACアウターローター・モーター(ダイレクトドライブ)

  • 代表機: Revox A77 / B77 / Studer
  • 仕組み: Revoxの最大の特徴。モーターの軸自体が太いキャプスタンシャフトになっている「ダイレクトドライブ」。しかも、回転する部分が外側にある(アウターローター)ため、フライホイール効果で回転が滑らか。
  • 最強の理由: ベルトを使わないのでゴム劣化の心配がなく、巨大なACモーターのトルクでテープを強力に搬送します。

第3章:謎の言葉「FGサーボ」の正体

さて、ここからが本題です。
RevoxのようなACモーターや、高性能DCモーターは、ただ電気を流すだけでは回転数が安定しません(負荷がかかると遅くなる)。
そこで登場するのが「FGサーボ(Frequency Generator Servo)」です。

「FG」= 周波数発電機(タコメーター)

Revoxのキャプスタンモーターを思い出してください。モーターの側面にギザギザした歯車のような溝があり、そこに「ヘッド(タコヘッド)」が近づけてありましたよね?

モーターが回ると、このギザギザがヘッドの前を通過し、微弱なパルス信号(交流)が発生します。

  • 速く回る →→ パルスの周波数(Frequency)が高くなる
  • 遅く回る →→ パルスの周波数が低くなる

つまり、「今の回転速度を、電気信号(周波数)として発電(Generate)している」。これがFGです。

「サーボ」= 自動修正(クルーズコントロール)

このFG信号を、制御回路(例のNE555などがいる基板)に送ります。

  1. 監視: 「今、FGから来る周波数は正しいか?」
  2. 比較: 「目標スピードより遅いぞ!」
  3. 命令: 「モーターへの電圧を上げろ!」

この「監視 →→比較→→修正」のループを、人間が感知できない超高速で行うこと。

これをサーボ制御と呼びます。

結論:「FGサーボ」とは、「モーター自身が生み出す周波数(回転信号)を見て、自分で自分の速度を修正し続けるシステム」のこと。

だからRevoxは、テープの巻き始めでも巻き終わりでも、ピッチが揺らぐことなく、完璧な定速走行ができるのです。

第4章:RevoxにおけるFGサーボの凄さ

以前の記事で解説した「キャプスタン制御基板」は、まさにこのFGサーボの頭脳です。

  • 入力: タコヘッドからのFG信号(今の速度)
  • 処理: オペアンプで増幅し、タイマーICで基準と比較
  • 出力: パワートランジスタでACモーターのトルクを制御

一般的なDCモーターのFGサーボよりも、Revoxの「高トルクACモーター + 電子制御FGサーボ」という組み合わせは、圧倒的にトルクが太く、少々テープが古くて摩擦が大きくても、強引に(かつ正確に)回し切るパワーがあります。
これが「Revoxの音は太くて揺れない」と言われる物理的な理由です。

まとめ:モーターは「回る」のではなく「制御される」もの

「キャプスタンモーターなんて、ただ回ってるだけでしょ?」
もしそう思っていたなら、今日でその認識を捨てましょう。

プロ用機器におけるキャプスタンモーターは、FG(周波数)という言葉で制御回路と常に対話し続ける、高度なシステムの一部です。

「FGサーボだから良い」と言ったのは、単にカタログスペックの話ではなく、「常に速度を監視し、修正し続ける信頼性」のことを指しています。

次にB77の電源を入れるとき、一瞬で定速に達するそのモーターを見てあげてください。
「今、猛烈な勢いでFG信号が出ているな」と感じられたら、あなたはもう立派なメカニック・エンジニアです。

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