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オープンリールデッキ、特にRevox B77のようなハイファイ機において、その性能を決定づける最も重要な物理的要素が「アジマス(Azimuth)」です。
アジマスとは、テープの走行方向に対するヘッドギャップの角度を指します。これが垂直(90度)からわずかでもズレると、高域周波数の減衰(Gap Loss)が発生するだけでなく、左右チャンネル間の位相差(Phase Shift)により、音像の定位がぼやけ、ステレオイメージが崩壊します。
本記事では、手持ちの測定機器(オシロスコープ、周波数ジェネレーター、安定化電源)を使用し、工学的根拠に基づいてRevox B77のアジマスを完璧に調整する手順を解説します。
1. アジマス調整に必要な機材と役割
正確な調整には、客観的な数値と波形を表示できる測定器が不可欠です。以下の機材をセットアップしてください。
1. オシロスコープ(Oscilloscope)
今回の調整の主役です。2チャンネル入力が可能で、X-Yモード(リサジュー図形表示)を備えたものを使用します。位相のズレを視覚化するために必須です。
2. 周波数ジェネレーター(Frequency Generator)
録音ヘッドのアジマス調整時に使用します。安定した10kHz〜15kHzのサイン波(正弦波)を出力できるものが必要です。
3. 安定化電源(Stabilized Power Supply)
見落とされがちですが、精密測定において極めて重要です。Revox B77本体および測定器(オシロスコープ、ジェネレーター)の電源をここから供給します。
- 役割: 商用電源の電圧変動を排除し、キャプスタンモーターの回転ムラや、発振器の周波数ドリフトを防ぎます。
- 推奨手順: 計測の30分前には全ての機材の電源を入れ、回路温度と電圧を安定(ウォームアップ)させてください。
4. 基準テープ(Calibration Tape)
再生ヘッドの調整には、正確なアジマスで録音されたテストテープ(10kHz以上の信号が含まれるもの)が必須となります。
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2. 準備:メンテナンスと機材の接続
調整ネジを回す前に、物理的なコンディションを整えます。
- 清掃と消磁: ヘッドおよび走行系(ピンチローラー、キャプスタンシャフト)を無水エタノールで清掃し、消磁器(デマグネタイザー)で帯磁を除去します。汚れや帯磁は高域特性を変化させ、誤った調整の原因となります。
- 機材の接続:
- 出力: Revox B77の OUTPUT L / R を、オシロスコープの CH1 (X) / CH2 (Y) にそれぞれ接続します。
- 入力: 周波数ジェネレーターの出力を、Revox B77の INPUT L / R に接続しておきます(後の工程で使用)。
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3. 実践工程A:再生ヘッド(Repro Head)の調整
Revox B77は3ヘッド構成(消去・録音・再生)です。まずは基準テープを使用し、「再生ヘッド」を正しい角度に固定します。これが全ての基準となります。
手順1:オシロスコープの設定
オシロスコープを「X-Yモード」に切り替えます。これにより、LチャンネルとRチャンネルの位相関係をリサジュー図形として描画できます。
手順2:基準テープの再生
基準テープの「アジマス調整用信号(通常10kHzまたは15kHz)」の部分を再生します。B77のモニター出力スイッチは STEREO または REPRO に設定してください。
手順3:アジマスネジの調整
ヘッドカバーを外し、一番右側にある再生ヘッドのアジマス調整ネジを回します。
- 注意: Revox B77のヘッドには複数のネジがあります。アジマス用は通常、ヘッドベース手前にあるスプリングが噛ませてあるネジです。高さ調整用やあおり(Tilt)用のネジには触れないでください。
手順4:波形の追い込み
オシロスコープの画面を見ながら、波形が**「右上がり45度の直線」になり、かつ「波形の振幅(線の長さ)が最大」**になるポイントを探します。
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4. リサジュー波形による判定基準
オシロスコープに表示される図形の意味は以下の通りです。この表を参考に、「完全な同相」を目指してください。
| 波形の形状 | 状態 | 解説 |
|---|---|---|
| / (直線) | 正解 (同相) |
L/Rの位相が完全に一致しています。アジマスは完璧です。 音はセンターに定位し、高域もクリアです。 |
| 〇 (楕円/円) | ズレ (90度位相差) |
位相が90度ずれています。高域が減衰し、音がぼやけています。 直線になるまでネジを微調整してください。 |
| \ (逆直線) | 不正解 (逆相) |
180度の位相ズレです。アジマスが大きく狂っているか、ケーブルの配線ミス(ホット/コールド逆接続)の可能性があります。 |
5. 実践工程B:録音ヘッド(Record Head)の調整
再生ヘッドの調整が完了したら、次に「録音ヘッド」を調整します。これにより、自身のデッキで録音・再生した際に位相ズレが起きないようにします。ここで周波数ジェネレーターを使用します。
手順1:信号の入力
周波数ジェネレーターから 10kHz(または15kHz)のサイン波 を出力し、B77に入力します。録音レベルは0VU付近(歪まない程度)に設定します。
手順2:同時録音再生(モニター)
新品または状態の良いブランクテープをセットし、録音状態(REC)にします。
この時、B77のモニタースイッチを TAPE に設定してください。
- 仕組み: 録音ヘッドで記録された瞬間の磁気情報を、先ほど調整した「正しい再生ヘッド」で読み取り、その波形をオシロスコープで観測します。
手順3:録音ヘッドの調整
オシロスコープを見ながら、中央にある「録音ヘッド」のアジマス調整ネジを回します。
再生ヘッドの時と同様に、リサジュー波形が「右上がり45度の直線」かつ「最大振幅」になるように合わせます。
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6. まとめ:正確なアジマスがもたらす効果
安定化電源によるクリーンな電源環境下で、オシロスコープを用いてアジマスを追い込んだRevox B77は、カタログスペック通りの、あるいはそれ以上の性能を発揮します。
- 周波数特性の改善: 20kHz以上の超高域までフラットに伸びるようになります。
- 定位の安定: ボーカルや楽器の位置関係がピンポイントで定まります。
- モノラル互換性: L+Rを合成しても周波数キャンセルが起きず、芯のある音が保たれます。
アナログオーディオのメンテナンスにおいて、感覚に頼らない計測機器を用いたキャリブレーションこそが、最良の音質への最短ルートです。