終戦直前の『無線と実験』が伝えた米国の最新録音機とは?

皆さんは、オープンリールデッキの名機「Revox」などが誕生するよりさらに前の時代、音声の録音に何が使われていたかご存知でしょうか。

今日のブログ記事は非常に古い資料の復刻。。。

無線と実験のまとめ買いをした時に付録についていた記事で、当時のまま掲載されていました。

とても興味深かったので内容をさらに調査し紹介したいと思います。

太平洋戦争が終結する直前、昭和20年(1945年)7〜8月合併号の『無線と実験』です。

当時の日本は物資も情報も極端に不足していたはずですが、この記事には驚くべきことに、敵国であったアメリカの最新オーディオ機器の技術解説が掲載されていました。

それが「G.E.(ゼネラル・エレクトリック)の新磁氣録音器」です。

現代のテープレコーダーの祖先とも言えるこの「ワイヤーレコーダー(鋼線録音機)」の貴重な記事を紐解き、復刻してみたいと思います。

テープレコーダーというと、戦時中はドイツで非常に発展し、戦後アメリカ軍が持ち帰り、アメリカで商業機化した歴史があります。

私たちが今知っているテレコというのはほとんどがこのアメリカでの商業化以降のものになりますので、とても興味深い企画だと思います。

磁気テープではなく「人間の髪の毛」ほどの鉄線に録音!?

記事の冒頭には、重厚な金属製のトランクのような機械の写真が掲載されています。

引用:無線と実験より

これがG.E.製の新型磁気録音機です。
総重量は約45ポンド(約20kg)と記載されています。

最大の特徴は、録音媒体に「磁気テープ」ではなく「鋼線(ワイヤー)」を使用している点です。

記事本文から、その驚異的なスペック(当時としては)を抜粋してみましょう。

  • 極細のワイヤーを使用:鋼線の直径はわずか 4/1000インチ(約0.1mm)。記事内でも「人間の頭髪と同じくらい」と表現されています。
  • 超長時間録音:直径約9.5cm(3 3/4インチ)の小さなスプール(巻枠)に、なんと2マイル(約3.2km / 11,500フィート)もの長さの鋼線が巻かれており、「たっぷり1時間以上の演説を楽に収録可能」とされています。
  • コストと取り回しの良さ:当時の磁気テープ(磁帯)よりも安価で有利であると評されています。

ハサミとライターで編集(ダビング)が可能

さらに面白いのが、録音した音声の編集(記事内ではダビング、継ぎ合わせと表現)の方法です。

現代のオープンリールテープであれば専用のテープカッターとスプライシングテープを使いますが、この鋼線録音機は非常にワイルドです。

“継ぎ合はすには、継ぎ合はす鋼線の末端をそれぞれマッチかライターの焔でなまして、つなげばよいといふ簡単さ” (※当時の記事より意訳・抜粋)

なんと、切断したワイヤーの端をライターの火で炙って柔らかくし(焼きなまし)、物理的に結んでつなぎ合わせるだけで良いと書かれています。

結び目が再生ヘッドを通過しても問題ない構造になっていたようです。

高周波消去の採用と、垣間見える「日米の技術差」

回路図も掲載されており、真空管を使った増幅器と、「高周波発振器」が搭載されていることが分かります。

当時すでに、ノイズ(歪)を除去するために約30,000Hz(30kHz)の高周波バイアス(高周波消去)が実用化されており、録音したワイヤーを「2度、3度はおろか何回も使用できる」と、その先進性が解説されています。

そして、この記事の中で最も歴史の重みを感じるのが、末尾の編集局による以下の記述です。

“因みに、敵アメリカに於ては今次戦争の勃発以来磁氣録音器が軍用に盛んに使用せられるのに促されて、その方面に於ても大いに使用せられつつあるといふ。日本に於ては…(中略)…余り出張録音には用いられてゐないやうである。”

「敵アメリカ」と呼びながらも、米軍がすでにこの磁気録音機を軍事・通信用途で実用化・大量配備している事実を冷静に伝え、日本ではまだ研究の余地があり、実用化が遅れていることを認めています。

そして最後は、「軽量で小型で性能のよいものの出現を望むものである」と、技術者としての純粋な願いで締めくくられていました。

太平洋戦争に関しては義務教育の教科書ではなかなか正しく学ぶことが難しいとも言われていますし、実際教科書に占める割合も少ないでしょう。

また、解釈の偏りなども生じやすいため、個々の学びにゆだねられるところが大きいと思います。

こういった技術系の雑誌の記事の中から当時の様子を垣間見えるというのは非常に貴重なことであり、大きな学びになろうかと思います。

終戦の直前というのもとても興味深いですよね。

まとめ:録音技術の夜明け前に思いを馳せて

終戦のわずか数ヶ月前。
空襲の脅威や物資不足に苦しむ日本にあって、このように海外の最新技術を冷静に分析し、次世代のオーディオ・通信技術に思いを馳せていた技術者や編集者がいたことに深く胸を打たれます。

この数年後、技術はワイヤーからプラスチックベースの磁気テープへと進化し、私たちがよく知るRevoxやStuder、そしてカセットテープへと繋がる「オーディオ黄金期」が幕を開けます。

このG.E.の新磁気録音機の記事は、そんな録音技術の夜明け前を照らす、貴重な歴史の証人と言えるでしょう。

朝比奈 幸太郎
音楽家・録音アーティスト

この記事を書いた人:朝比奈 幸太郎

音大卒業後ピアニストとして活動後、渡独。
帰国後タイムマシンレコード・五島昭彦氏に師事し、究極のアナログ録音「金田式DC録音」の技術を継承。
Revox等のヴィンテージ機材のレストア技術を持ち、マイク、アンプ、スピーカーに至るまでシステムを根底から自作・設計する録音エンジニア。
物理特性と芸術性が融合する「本物の音」を追求・発信している。